造血幹細胞(Hematopoietic stem cell: HSC)は、生涯にわたり赤血球、血小板、顆粒球、リンパ球といったあらゆる成熟血液細胞を供給しつづける組織幹細胞である。しかし、このHSCが骨髄内でどのようにして長期間にわたりその機能が維持され、造血系恒常性の維持に寄与しているかは完全には解明されていない。この問題を解く鍵として、申請者は自己複製能を長期にわたり維持する長期造血幹細胞分画特異的に発現する転写因子としてHoxb5を同定した。一方で、Hoxb5とHSC機能を解析した報告はこれまでにない。そこで、申請者の有する長期造血幹細胞分離技術を応用し、Hoxb5を始めとしHoxファミリー遺伝子が造血幹細胞に発現する細胞生物学的意義を検討した。 Lineage-cKit+Sca-1+Flk2-CD34-/loCD150+(以下、pHSCと表記)で表される造血幹細胞分画は、Hoxb5の発現の有無により長期造血幹細胞と短期造血幹細胞に分かれることをこれまでに発表してきた。長期造血幹細胞と短期造血幹細胞の明確な細胞学的相違は自己複製能のみであることから、Hoxb5が自己複製能の制御にどのように寄与しているか解析した。これまで自己複製能は内在的なプログラムにより運命づけられていると考えられていたが、外因的な要因により柔軟にその機能が変化すること、またその変化をHoxb5が規定していることが、体外細胞培養やマウスへの移植実験により実証することができた。また、Hoxb5の発現はhomeostasisの状態以外にも種々の環境変化により異なる挙動を示すこと、さらにはその他のHoxファミリー遺伝子の発現と連動していることがNGS解析を通して明らかとなった。 現在、これらの実験結果をもとに、造血幹細胞分画における新たな自己複製能の維持機構に関する論文を執筆し、投稿中である。
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