大人の脳の神経幹細胞はほとんどが細胞周期を停止した「休眠状態(静止状態)」にあり、増殖・分化して新しくニューロンを産生する「活性化状態」のものはごくわずかである。しかし、「休眠状態」を制御する基本的な細胞内分子メカニズムは、ほとんど分かっていない。申請者はこれまでの研究から、以下の現象を明らかにした。1. 休眠状態の神経幹細胞では、リソソーム機能の昂進が起こっていること、2. リソソームは活性化したシグナル伝達因子をより積極的に消去して休眠状態を維持していること、 さらに、3. リソソーム阻害剤処理により活性化状態に変化することを見いだした。これらの知見をさらに発展させ、細胞内分解系による成体神経幹細胞の制御機構について、分子・個体レベルで明らかにする事が本研究課題の目的である。 平成29年度は、以下の解析を行った。 1,リソソーム阻害剤による活性化型への変換機構の解析:申請者らが行ったリソソーム阻害剤処理後のトランスクリプトーム解析の結果から、活性化・不活性化されているシグナル伝達経路を抽出し、阻害剤処理、シグナル因子の過剰発現等による解析を行った。また、リソソーム機能に関連する細胞内経路の阻害剤による検討を行った(投稿準備中)。 2,成体神経幹細胞特異的ノックアウトマウスの解析:リソソーム生合成に関わる転写因子の成体脳における神経幹細胞特異的ノックアウトマウスを作成し、幹細胞の維持状況、活性化・休眠状態、神経分化を解析した(投稿準備中)。ノックアウト神経幹細胞での解析も行った(投稿準備中)。
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