多細胞生物の形態形成を研究する。組織を構成する細胞を多角形または多面体と考えて、そこでの多角形/多面体の頂点の動きを記述する運動方程式をつかった数理モデル、Vertex dynamics作成しこれを使う。これにより細胞の振る舞いを数理的にあらわすことができ、この方法で多細胞生物の形態形成を調べることができる。この研究プロジェクトは、未だに謎である多細胞生物の器官の左右非対称形成をこの数理的方法を使って研究することが目的である。前半では非対称形成が顕著な心臓の形成についてしらべた。 一般に細胞からなるチューブにおいて、チューブを構成する細胞に異方的な力学的性質(例えば斜め方向の収縮)があったときに、その異方性の与え方によって(1) チューブの全体の形は変わらずに、細胞がチューブ表面を回転するように動いたり、 (2)細胞はチューブ表面では大した動きはせずに、チューブ自体が大きく変形してねじれを起こすことがわかった。そこでチューブの軸まわりの回転運動と軸自体がループするような変形を関連づける試みを行っている(これによりで消化管の一般的な性質である軸まわりのねじれが、大腸における腹部全体にわたるループ形成を説明できる可能性がある)。例えばチューブ表面を細胞が旋回するような条件のもとで、チューブの端を動かすことで、細胞の旋回運動の代わりにチューブ自体はどのようなループを示すかなどの試みである。 これまではチューブ軸まわりの回転とチューブ自体のらせん状の変形についてシミュレーションの上では明解な関連づけは行えていなかった。いま使っている細胞モデルはチューブの弾性的性質とともに塑性的性質が含まれているのだがこの二者の重みの振り分けを検討した。多角形細胞の各辺長についての弾性エネルギーを示す項を新たに加えて、この項の重みを大きくしたところ見事に弾性的性質を示すチューブがシミュレートできた。
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