研究課題/領域番号 |
17K07412
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
上田 均 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (60201349)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タイミング / エクダイソン / ショウジョウバエ / 栄養 |
研究実績の概要 |
前蛹期間の決定に栄養状態が影響する機構を解析するため、幼虫期間にインシュリンあるいはTORパスウェイのシグナルの減衰あるいは増強を行なったが、前蛹期間に影響を及ぼすことはほとんど見られなかった。一方、エクダイソン関連遺伝子の発現パターンを解析したところ、エクダイソンシグナルに影響が出ている可能性が生じ、栄養シグナルが蛹化タイミングに与える機構は、単に脂肪体だけで作用していない可能性が高まった。 前蛹期間に影響を与える変異株として26SプロテアソームサブユニットおよびE3のFbxo11の変異株ではBlimp-1の分解速度が低下することから、Blimp-1はFbxo11によって26Sプロテアソームにリクルートされて分解すると考えられた。さらに、短いペプチドをコードする因子Priの変異株でも蛹化期間が延長することから、このペプチドがタイマー機構に関わることが示唆された。 Ptthの各発生ステージへの影響を調べるため、TARGETシステムを用いて、特定の発生ステージからptth産生細胞を死滅させることができるfly系統を作成した。 幼虫期に発現するftz-f1の発現制御機構を探るため、プロモーター領域近傍の欠失株を複数作成したところ、3齢幼虫期間が延長している系統が複数確認され、3齢期間の決定にFTZ-F1が重要な役割を果たすことが示唆された。 次に、3齢期に働くアイソフォーム特異的領域をターゲットとしたRNAi系統を作成し、3齢幼虫期特異的にノックダウンすることにより、3齢幼虫期におけるFTZ-F1の役割を解析する準備を整えた。 Blimp-1の様々な領域を欠失するBlimp-1を熱ショックで誘導できる系統を用いて蛹化直前に発現させ、蛹化のタイミングを調べたところ、今まで機能不明であった領域が関係することが示唆され、Blimp-1の作用機構解明の新たな糸口をつかむことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、FTZ-F1のCW等への影響を解析できていないが、準備が整ったので今後解析予定で、それ以外はほぼ予定通り進んでいる。priが新たに前蛹期間の決定に関わることが明らかになり、この解析を進めるために他の解析に力が十分注げなかったことがその大きな理由である。また、栄養シグナルが入る経路が予想以上に複雑か、期待した経路でないため結論が最終的に解決したと結論できるまで出ていない点がある。
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今後の研究の推進方策 |
栄養シグナルが蛹化タイミングに与える機構は、単に脂肪体だけで作用していない可能性が高まったので、体全体でインシュリンあるいはTORパスウェイを3齢幼虫中後期あるいは前蛹期に増強あるいは衰退させ、これらのパスウェイが栄養情報を前蛹期間決定に伝えることへの関与の可能性を調べる。 各時期のEパルス期間と蛹期間を決める分子機構解析に関しては、特定の発生ステージからPtth産生細胞を死滅させることができるfly系統を用いて、各発生ステージにおける役割を明らかにする。また。Ptthの重要性が確認されたので、その発現制御機構を明らかにするため、プロモーター領域をレポーターに結合させた融合遺伝子を持つトランスジェニックフライの作成を継続して行い、その発現制御機構の解明の第一歩とする。 蛹化期間の決定に、短いペプチドのPriが関与する可能性が示されたので、同定しているタイマー因子の発現パターンを分子遺伝学的手法で変えることによりpri変異の影響を緩和することができるか調べることにより、Priシグナルが入るタイマー機構の部位を明らかにする。また、Priはタンパク分解系に関わることが別の系で示唆されているので、Pri変異株でのBlimp-1の分解速度への影響を調べ、Blimp-1の分解がそのターゲットである可能性を調べる。この仮説が正しいならば、すでに作成している様々なBlimp-1の部位を欠失した領域を発現できる系統を用いて、Priが作用するために必要なBlimp-1のドメインを明らかにし、全く明らかでなく想像もつかないPriの分子作用機構の解析の糸口とする。 3齢期のFTZ-F1については得られた変異株およびノックダウン系統を用いて、3齢期間およびCWへの影響を調べるなどの解析を行い、その役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画時に購入を計画したインキュベーターは、本配分が決定直前に大学から配分される別の予算で購入することができたため、その機器で本計画が補えること、また接地スペースもなくなり、その購入予定金額の一部をたまたま壊れてしまった乾熱滅菌器の購入費用とし、その残りを昨年度以降使用することにし、そのため今年度も繰り越すこととした。使用用途は、前年度までの研究で、前蛹期間決定に新たな可能性が生じており、その可能性を新たに検証するための解析に関する消耗品等を購入することおよび成果発表のための費用とする。
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