研究課題/領域番号 |
17K07415
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
廣田 ゆき 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (00453548)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大脳皮質発生 / ニューロン移動 / 受容体 |
研究実績の概要 |
大脳皮質発生において、脳室帯で誕生したニューロンは多極性細胞として一過性に脳室下帯に留まり移動するが、その分子機構には不明な点が多く残されている。リーリンシグナルはニューロン移動と層形成を制御する重要なシグナル経路であり、移動ニューロンに対して多様な作用を及ぼすことが知られているが、その詳細な分子メカニズムには不明な点が残されている。私達は最近、脳室下帯ニューロン移動においてリーリン受容体ApoER2がネトリン受容体Unc5Dと相互作用すること、分化後の皮質ニューロンから分泌されるFLRT2リガンドとUnc5Dを介した細胞移動制御にApoER2が必要であることを見出した。そこで本研究ではApoER2とUnc5Dとの結合に着目し、これらが共受容体として脳室下帯ニューロン移動を制御する可能性を検討している。 本年度はApoER2とFLRT2が相互作用することを新たに見出した。また、FLRT2およびApoER2の部分欠失変異体を用いた生化学的検討により、細胞外ドメインが結合部位であることを明らかにした。これらの知見は、ニューロンから分泌されたFLRT2がApoER2を介して脳室下帯の移動ニューロンに作用し、その移動を制御する可能性を示唆している。大脳皮質の発生においてリーリン以外のリガンドがApoER2を介してニューロン移動を制御することは今まで報告がなく、脳室帯から移動を開始してまもないニューロンの脳室下帯における移動制御メカニズムを理解する上で重要な知見であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はApoER2とFLRT2が細胞外ドメインを介して結合することを明らかにした。この知見は、ApoER2がFLRT2から受けるニューロンの反発作用に必要であることと合わせて考えると、ニューロンから分泌されたFLRT2がApoER2を発現する脳室下帯の移動ニューロンに結合し、その移動を制御する可能性を示唆しており、重要な知見である。 一方、これまでUnc5Dノックダウン実験を行い、ニューロンの移動が著しく阻害されるというデータを得ていたが、本年度にUnc5D ノックアウトマウスに対するUnc5Dノックダウンを行ったところ同様な表現型が得られたことから、用いているUnc5Dノックダウンベクターがオフターゲット効果を持つものと考えられ、それまでのデータは使用不可となった。そこで現在新たにノックダウン配列を複数種類のベクターを用いて作成し、検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1. ApoER2-Unc5D複合体に対するリガンドの作用:これまでの研究により、ApoER2-Unc5D複合体が形成され、リガンドとしてReelin, FLRT2が作用すると想定される。そこでApoER2とUnc5Dがこれらのリガンド刺激が及ぼす影響を検討する。 (1-1) リーリンシグナルの評価:リーリンシグナル下流エフェクターのDab1のリン酸化を、Dab1抗体による免疫沈降と抗リン酸化チロシン抗体によるウエスタンブロットで評価することができる。Unc5D KOマウスの大脳皮質から初代培養を行い、リーリン刺激時のDab1のリン酸化が変化するかを検討する。 (1-2) Unc5Dシグナルの下流について現在までに明確な下流シグナルは見出されていない。過去の報告により、Unc5ファミリー分子はカドヘリンを含む接着分子の制御に関与することが示されている点に着目し、Unc5Dノックアウトマウス大脳皮質から初代培養を用いて、各種の接着分子への反応に変化があるかを接着分子でコートしたディッシュへの接着活性の測定により評価する。 2. ApoER2-Unc5D複合体の機能のin vivoにおける解析:ApoER2-Unc5D複合体がニューロン移動に与える効果を検討するために、ApoER2/ Unc5Dダブルノックアウトマウスを交配により作成する。胎生14日において子宮内エレクトロポレーション法により脳室帯の細胞をGFPで標識し、その後経時的に細胞の移動を評価する。また、各種ニューロン分化マーカーを用いて、分化に与える影響を調べる。
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