研究課題/領域番号 |
17K07418
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
小田 康子 (秋山康子) 大阪医科大学, 医学部, 非常勤講師 (80426650)
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研究分担者 |
小田 広樹 株式会社生命誌研究館, その他部局等, 主任研究員 (50396222)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ゲノム / ヘッジホッグシグナル / 体節形成 / 発現振動 |
研究実績の概要 |
本研究では、発生初期の卵の分子的な非対称性が、どのように体節形成時の遺伝子発現の振動へと発展するのかを明らかにすることを目指し、オオヒメグモを用いて解析している。これまでの研究で、オオヒメグモでは前後軸に沿ったパターンの形成はヘッジホッグシグナルにより制御されており、ヘッジホッグシグナルにより負の制御をうけるmsh遺伝子が体節形成にはたらくこと、さらにオオヒメグモの体節形成は頭部、胸部、後体部の各領域で異なる様式で行われることが分かっている。 本年度は、msh遺伝子や、これまでにmshのparental RNAiとRNA-seqにより同定した発現振動を示す遺伝子の発現の時間変化を蛍光in situハイプリダイゼーション(FISH)法を用いて解析し、続いて遺伝子発現を局所的にノックダウンできる胚性RNA干渉(eRNAi)法によりmshの機能解析を行った。その結果、(1)後体部の体節形成において複数の振動遺伝子の発現を位相の異なる波として捉えることができた。(2) mshの発現がこの後体部体節形成の遺伝子発現振動に先立つ大きな波となっており、この波はヘッジホッグシグナルによる前後のパターン形成制御と同じ仕組みの中にあることが示唆された。(3) mshの発現を抑えると遺伝子発現振動が進展しない、または開始しなかった。(4) mshの発現の波は将来の胸部領域に進行し、3つの縞に分割された。これらは胸部4体節のうちの3体節に相当する縞である。(5) mshの発現を胸部で局所的に抑えると相補的な発現をする遺伝子の縞パターンが融合した。(6) mshは頭部のスプリット様式の体節形成にもはたらく。このようにmshの発現と機能の解析から新しい現象が明らかになってきており、mshは初期胚の前後軸パターン形成から振動の開始へと進展させる仕組みを解く手がかりとなることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた微小組織に由来するRNA-seq実験とCRISPR/Cas法の確立に向けた実験を開始することはできなかった。しかし、正常胚における発現解析とeRNAiによる機能解析から、後体部における遺伝子発現振動に先立って起こる発生現象を発見することができ、胸部における分割様式の体節形成の分子基盤に関しても新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
mshのeRNAiと微小組織からのRNA-seqを組み合わせた方法による遺伝子探索を開始する。CRISPR/Casによるノックインの実験系の開発を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
胚の経時的な観察により本研究のテーマに関する新しい現象を発見することができたため、本年度は予定を変更しこの現象の解析を先に進めた。次年度は本年度に計画していた微小組織からのRNA-seqと外来遺伝子の発現系の構築を行う。これらの実験に必要となる試薬、器具を購入する計画である。
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