研究課題/領域番号 |
17K07422
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
加藤 譲 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 助教 (60570249)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マウス / 卵巣 / 原始卵胞形成 / RNA制御 |
研究実績の概要 |
哺乳動物において長期に渡り継続的に卵子を産生するためには、卵子のリザーバーである原始卵胞の逐次的な卵胞成長活性化が必要である。原始卵胞は有限であり、マウスにおいて出生直後に形成される。そのため、適切な数の原始卵胞を作出することは、雌の生殖可能期間の決定にとって重要な意味を持つ。また、原始卵胞の形成異常は女性不妊とも密接に関わるため、その分子機構の解明は医学的にも重要な研究課題である。 マウスにおける原始卵胞形成のこれまでの研究は、Figlaに代表される転写因子の関与や、Notchシグナルに代表されるシグナル因子の関与が示されてきた。しかし、原始卵胞形成の分子機構の理解は未だ乏しい。 本研究では、卵母細胞特異的に発現するRNA結合タンパク質(Aとする)に焦点を当て、その機能解析を通じて、原始卵胞形成機構の理解深化を目指すものである。これまでの研究から、遺伝子A変異体では原始卵胞形成が著しく阻害され、卵母細胞が出生後速やかに消失することがわかっている。一方、Aタンパク質の分子機能については未だ明らかとなっていない。 そこで、本年度は遺伝子Aの有力な標的RNAの絞り込みを行い、有力な標的候補遺伝子Bを同定した。続いて、遺伝子Bについてノックアウトマウスを作成し、卵母細胞特異的Creによる条件的ノックアウトマウスを用いて、原始卵胞形成への影響について解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA結合タンパク質であるAの原始卵胞形成過程における標的RNAを同定するため、出生直後の卵巣を用いてRNA-seqを行い、タンパク質Aの標的RNAを網羅的に同定した。Gene ontology解析の結果から、タンパク質Aの標的として、P-bodyやstress顆粒と呼ばれる細胞質顆粒に属するタンパク質をコードする遺伝子群が多く含まれることが明らかとなった。 出生前後の野生型卵巣においてこれら細胞質顆粒の発現を抗体染色によって調べたところ、出生前の卵巣では、卵母細胞においてストレス顆粒がdominantに発現しているのに対し、出生後はそれがP-bodyに置き換わる様子が観察されたため、これらの顆粒のダイナミクスにおけるタンパク質Aの関わりに注目し、以下の実験を行った。 1)遺伝子A変異体における細胞質顆粒の発現解析:遺伝子A変異体において細胞質顆粒の発現を抗体染色により調べたところ、stress顆粒の減少、P-bodyの発現、のどちらも正常に起こらないことが新たに明らかとなった。すなわち、タンパク質Aは原始卵胞形成過程において細胞質顆粒の発現変化に必須の役割を果たす。 続いて、これら顆粒のダイナミクスの原始卵胞形成への関与について解析するため、以下の実験を行った。 2)P-body因子である遺伝子Bノックアウトマウスの作出と解析:遺伝子Bの条件的ノックアウトマウスを作成し、Mvh-Creを用いて、卵母細胞特異的に遺伝子Bをノックアウトした。その結果、部分的に原始卵胞形成に異常が見られ、生後1週齢において約5割の卵母細胞が原始卵胞を形成していなかった。この結果から、タンパク質AによるP-body遺伝子の正の発現制御が原始卵胞形成における重要な役割の一つであることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析からタンパク質Aの機能の一端が明らかとなりつつあり、本研究は一定の結論を得た。現在、これまでの成果をまとめ、投稿論文を作成中であり、速やかなpublicationを目指す。しかし、タンパク質Aの分子機能の解明はまだ始まったばかりである。今後はタンパク質Aの結合パートナーの探索等により、分子機構の理解深化を目指す。
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