研究課題/領域番号 |
17K07425
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
野中 茂紀 基礎生物学研究所, 時空間制御研究室, 准教授 (90435529)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 左右非対称性 / 発生学 / 繊毛 |
研究実績の概要 |
哺乳類発生の左右決定においては胚表面のノードと呼ばれる部位において繊毛が作る左向きの水流が決定的に重要である。回転する繊毛が作る水流はノードの左右周縁部にある細胞自身によって検知され、細胞内Ca2+上昇(以下「発火」)が左側でより頻繁になる左右差を引き起こし、これがさらに遺伝子発現の左右差につながると考えられている。 しかしノードの細胞が水流を検知する機構は未だ不明である。現在までに提唱されている仮説として「膜小胞を通じ分泌された物質が濃度勾配をつくる(NVPモデル)」と「水流のずり応力が情報を伝える(ずり応力モデル)」の2つがある。前者はそれらしい映像が捉えられているものの時間解像度が不足しており、後者はノードの左右端で流速が違うことが前提となるが、哺乳類胚でこれをきちんと計測した例はない。 そこで両モデルを検証するために、今年度は電気的可変焦点レンズ(ETL)を用いて機械的振動なしに高速で立体像を撮影できる光シート顕微鏡を構築した。これで生きたマウス胚のノード表面、および蛍光マイクロビーズで可視化した水流を観察した。現在はデータ解析と、最適な撮影条件の探索を行っているところである。 いずれのモデルにおいても、その現象とノードのCa2+発火の同時性を確かめることがモデルの検証には不可欠であり、そのために現在、ノード表面とCa2+発火を同時観察できる2波長同時観察が可能な光シート顕微鏡の系を構築しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自作の光シート顕微鏡に電気的可変焦点レンズ(ETL)を組み込み、約10 volume/secで立体像を撮影でき、かつ機械的振動を排した光シート顕微鏡を構築した。これを用いて生きたマウス胚のノード表面を、また0.5 um蛍光ビーズを用いてノード表面近くでの水流を撮影した。 NVPモデルによればノード表面においてNVP粒子の生成と衝突が観察されるはずであり、ずり応力モデルによれば左右の流速差が観察されるはずである。それらの現象は今のところどちらも明確には捉えられていないが、前者においては撮影条件の最適化、後者においては定量方法の確立を図っている段階である。 水流とCa2+を同時観察できる顕微鏡システムについては、機器の選定、導入、設計を行った段階である。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べた撮影条件と定量方法を最適化して、NVPモデルとずり応力モデルの妥当性について結論を出す。これとは別に、流動電位が左右性確立に働いている可能性を検証するため、ノードの水流によって生じると考えられる流動電位の測定を行う。 いずれのモデルにおいても、最終的にその正しさを立証するためには、鍵となる現象とノード細胞におけるCa2+発火が同期していることが重要である。そのため水流とCa2+発火を同時観察できる顕微鏡システムを完成させる。 最後に、鍵となる現象が起きないような変異マウスがあれば、因果関係の立証はより強固なものとなる。各モデルの妥当性検証について見通しが立った段階で、CRISPR-Cas9システムを利用したそのような変異体の作成を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は2カメラのライトシート顕微鏡を構築するため高感度CMOSカメラ(約200万円)を新たに1台購入する予定だったが、他の予算措置で賄えることになったため、次年度以降に必要となる試薬や動物等の購入費に充てる。
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備考 |
(2)は研究課題そのものではないが、そのために構築した顕微鏡を用いた共同研究によって得られた成果。
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