研究実績の概要 |
本研究の目的は、クロロフィルの分解が核の遺伝子発現を制御し、その過程にジャスモン酸がかかわっていることを明らかにすることである。光合成色素であるクロロフィル分子は、中心金属としてMgを持つ。クロロフィルの分解はこのMgの脱離から始まる。我々はこの反応をStay-Green(SGR)が行うことを以前報告した。デキサメタゾン(DEX)で処理することによりSGRが誘導されるシロイヌナズナの形質転換体を作製した。これを利用し、DEXによりSGRを誘導するとクロロフィルが分解されるとともに、老化関連遺伝子が発現することが示された。さらにこの時、ジャスモン酸とエチレンが合成されることが明らかになった。本研究の主要な課題であるクロロフィル分解とジャスモン酸による核の遺伝子発現制御については、すでに論文として報告し、一定の成果を達成することができた。(Ono, K., Kimura, M., Matsuura, H., Tanaka, A. and Ito, H. (2019) Jasmonate production through chlorophyll a degradation by Stay-Green in Arabidopsis thaliana. J. Plant Physiol. 238: 53-62.)。 今年度は、昨年度に引き続きSGRの欠損株を使い研究を進めた。シロイヌナズナはSGR遺伝子を3つ持つ。これらすべて破壊した多重変異体を作製し、色素や光合成装置の分解、および遺伝子発現の解析を行った。野生株と比較して、クロロフィルや光合成装置の分解が、老化後期において顕著に抑制されることが示された。但し光化学系IIのコア複合体は例外的に分解された。分解されない光化学系Iは活性を維持することも示された。光合成装置の一部は老化の進行とともに分解されるため、光合成能力は野生株と同程度に低下することが示された。
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