研究課題/領域番号 |
17K07431
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20311516)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光合成 |
研究実績の概要 |
寒冷圏の多くの植物は低温下(凍結をしない程度の気温)で光障害を受けずに光合成をすることができる。寒冷圏の植物は光障害を回避するために、吸収した光エネルギーを熱として放散する複数のメカニズムをもつと考え られる。これらのメカニズムには、エネルギー伝達が可能な補欠分子(クロロフィルやカロテノイドなど)をもつタンパク質が関与していると予想される。本研究では低温下で誘導されるLILに焦点をあて、LIL複合体の分離精製と解析およびLIL欠損植物の光合成やエネルギー移動の解析をとおして、植物の低温下での光合成維持機能の一端を明らかにする事を目指す。 1年目はおもにLILの中でもLIL1について研究を進めた。シロイナズナLIL1欠損株とLIL1過剰発現体の形質を野生型と比較することでLIL1の機能を明らかにすることを試みた。LIL1欠損株は、低温条件下においても、成長、見た目、光合成活性、光化学系IIの量子収率、非光化学的消光などの点において、野生型との差は見られなかった。一方、LIL1過剰発現株のうち、一部の株では葉の一部が白色化し、葉緑体の形成または維持に異常が見られた。これらの過剰発現株では、クロロフィルの蓄積も減少していたが、これがLIL1過剰発現株の形質の原因なのか、結果なのかは現時点では不明である。さらに、LIL1の低温での誘導が植物に一般的に見られる現象なのかどうかを確認するために、冬季と夏季のイチイの遺伝子発現をRNAseqによって解析した。現在、データの分析中である。また、上記のLIL1と共通のクロロフィル結合モチーフを持つLIL8が光化学系IとIIのメガ複合体と相互作用している可能性を見出した。LIL8は光化学系のバランスを保つメカニズムに関与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、クロロフィル結合モチーフを持つ機能未知のタンパク質LILの機能を調べるのが目的であるが、一部の遺伝子コンストラクトを作製するのに、予想以上の時間がかかってしまい、この部分の研究の進展が遅れてしまった。また、冬季に発現している遺伝子の解析に関しても使用しているコンピュータのスペックに問題があり、予想以上の時間がかかった。ただ、LIL複合体の精製などのステップは順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、LIL1については、計画通り、複合体の精製を進めていく予定である。また、LIL1について、細胞内(チラコイド膜)における局在についても解析を進めている。特に、これらの解析で必要になる、Clear-Native電気泳動の条件検討を優先的に進めていく。その他のLILについても現在、複合体の精製が進行しているものがあるので、これらのついては、精製度を高め、質量分析を行うことによってタンパク質の同定を進める予定である。また、冬季の樹木のRNAseqに関しては、別途サーバーを用意することで解析を進める予定である。また、一部の遺伝子コンストラクトの作成に関しては、少し遅れていたが、4月から新たに担当する大学院生と共にワンステップずつ進めていき、遺伝子組換え植物をなるべく早く準備したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は、一部のコンストラクト作成などがうまく行かなかったために、研究の進行に若干の遅れが生じた。また、RNAseqの解析も遅れたために、その後計画していた遺伝子発現解析や関連する抗体作製の予定がずれ込んだ。これらの遺伝子組換え植物の解析や遺伝子発現解析の実験をなどをH29年度ではなく、H30年度に行うことになったため、H29年度の使用額が予定を下回った。
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