寒冷圏の多くの植物は低温下(凍結をしない程度の気温)で光障害を受けずに光合成をすることができる。寒冷圏の植物は光障害を回避するために、吸収した光エネルギーを熱として放散する複数のメカニズムを持つと考えられる。本研究では、低温下で誘導されるLight-harvesting-like (LIL)タンパク質に焦点をあて、LIL複合体の分離精製と解析、及びLIL欠損植物の光合成やエネルギー移動の解析を通して、植物の低温下での光合成維持機能の一端を明らかにすることを目指した。 本年度は、まず、イチイの北側と南側の葉で、光化学系IIの量子収率を計測し、冬季間、光化学系IIの熱放散が誘導される時期を確認した。その結果、どちらも11月後半から3月半ばにかけて光化学系IIの量子収率が低下することが明らかになった。イチイのRNAの研究から冬季に誘導されることが確認されたLIL1の抗体を用いて、年間の蓄積プロファイルを明らかにした。その結果、LIL1はイチイの南側と北側の葉で、光強度が異なるにもかかわらず、よく似たパターンを示し、11月から3月にかけて多く蓄積することが明らかになった。また、南側の葉では、10月や4月にもわずかにLIL1の蓄積が見られた。LIL1の発現と光化学系IIの量子収率の結果はよく一致する。また、光化学系IIの量子収率は冬季は気温とよく相関した変動を示した。また、Native電気泳動の結果、LIL1は光化学系IIとよく似た移動度を示すことが明らかとなった。これらの結果から、LIL1が光化学系IIに結合し、吸収したエネルギーを熱として放散するというモデルを提唱した。
|