研究課題/領域番号 |
17K07432
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
笹部 美知子 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (00454380)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞質分裂 / 微小管 / フラグモプラスト / キネシン / 細胞板 / MAPキナーゼ / プロテインキナーゼ / リン酸化 |
研究実績の概要 |
植物細胞の細胞質分裂を制御する主要な経路として機能するMAPKカスケードの下流の候補因子の一つとして、昨年度までに同じキネシンファミリーに属する二つの因子を同定している。同定した二つのキネシンは82%のアミノ酸相同性を示し、N末端の保存されたサイトが特異的にMAPKによりリン酸化される。本年度は、これら因子の細胞質分裂における機能とMAPKによる制御のしくみについて、培養細胞及びシロイヌナズナ個体を用いて解析を行った。まず、シロイヌナズナにおいて両遺伝子をオリジナルプロモーター制御下で発現させ、個体における発現パターンと細胞内局在を調べたところ、両因子は様々な組織において分裂期特異的に発現し、分裂期の細胞において微小管構造体と共局在することが分かった。この局在は、培養細胞における局在と一致していた。次にMAPKによるリン酸化がこれら因子の機能に及ぼす影響を調べるために、アミノ酸置換したMAPK非リン酸化型タンパク質を作製し、タバコBY-2細胞において細胞内局在の解析を行ったところ、MAPK非リン酸化型タンパク質は野生型タンパク質と同様に微小管に局在するものの、微小管に一様に局在する野生型タンパク質とは異なり、プラス端側に優先的に局在する様子が観察された。また、MAPK非リン酸化型タンパク質の過剰発現は、両因子ともにBY-2細胞において、フラグモプラストの拡大成長の遅延や、フラグモプラストの崩壊を引き起こし、最終的に多数の多核化細胞を生じさせた。これらの結果は、フラグモプラスト微小管に対する機能が、MAPKによるリン酸化により変化し、それがフラグモプラストの適切な動態制御及び細胞質分裂に必要であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は同定したタンパク質と相同タンパク質について、生化学的、細胞生物学的な詳細な機能解析を高い精度で進めることができた。一方で、遺伝学的な解析も同時に進め本年度中に解析を完了する予定であったが、人工気象器の故障が重なり、解析を完了することができなかったため、研究の進行がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
植物の細胞質分裂を制御するMAPKの新規基質候補として同定されたキネシンについて、個体レベルでの解析及び遺伝学的解析を完了させる。具体的には、MAPK非リン酸化型タンパク質が変異体の表現型を相補できるかどうかを調べることにより、MAPKによるリン酸化が個体発生においても重要に機能しているかどうかを明らかにする。さらに、リン酸化による分子機能の制御メカニズムについても解析をすすめ、細胞質分裂を制御するMAPKカスケードが制御する因子についてその機能の詳細を分子レベルで明らかにする。また、同時に進めていたもう一つのMAPKの下流因子について生化学的解析が大きく進み、相互作用因子の候補を複数単離することができた。今後、質量分析による同定を進める。これらを総合して解析することにより植物の細胞質分裂の制御機構の全体像の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物個体を用いた解析を実施中に人工気象機の故障が生じ、予定していた実験が遂行できなかったため差額が生じた。研究目的達成のため、再解析が必要であると判断し、事業期間の延長を申請したところ、延長が許可された。上記理由により生じた差額分は、再解析の研究費及び論文投稿費用として使用予定である。
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