研究実績の概要 |
植物細胞の細胞質分裂を制御MAPKカスケードの下流因子の候補として同定した同じキネシンファミリーに属する二つのキネシンは82%のアミノ酸相同性を示し、いずれもN末端の保存されたサイトがMAPKによりリン酸化される。これら因子の細胞分裂における機能とMAPKによるリン酸化の効果を調べるために、アミノ酸置換したMAPK非リン酸化型タンパク質をタバコBY-2細胞において過剰発現させたところ、両因子ともにフラグモプラストの拡大成長の遅延や、フラグモプラストの崩壊が引き起こされ、大きく歪んだ不完全な細胞板を持つ多核化細胞が多数生じることが分かった。また、MAPK非リン酸化型タンパク質の過剰発現は、細胞質分裂の異常のみならず分裂方向にも異常を生じさせた。この原因を探るため、細胞周期を通して微小管構造体の観察を行ったところ、中期紡錘体の位置が定まらないという異常も同時に生じていることが分かった。これらの結果から、同定したキネシンは細胞分裂を制御する微小管構造体の構造及び機能を維持するために重要な役割を担っていること、その機能がMAPKによるリン酸化により制御されていることが明らかとなった。さらに、MAPKによるリン酸化の意義を個体レベルで理解するために、シロイヌナズナの変異体を用いて解析を行った。このキネシンの変異体は、花粉形成過程の減数分裂において分裂異常が生じ、稔性のある花粉が形成されない。この変異体にオリジナルプロモーターを連結した野生型遺伝子を導入したところ、花粉形成の異常を相補したが、MAPK 非リン酸化型遺伝子の導入はこの表現型を相補することができなかった。この結果から, 本キネシンのMAPKによるリン酸化は、花粉形成における減数分裂の正常な進行にも必要な制御機構であることが明らかになった。
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