水分屈性発現機構において,水分勾配情報の生物学的情報への変換はその核心と言える。本研究では,シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的手法に加え,キュウリ,イネ,ミヤコグサを用いて,水分勾配情報がどこで,どのように生物学的情報(遺伝子発現,植物ホルモン応答)に変換されるかを解析した。まず,シロイヌナズナ芽生えに対する顕微レーザー照射による細胞破壊を用いた解析から,シロイヌナズナにおいて,根端コルメラ細胞は水分屈性に必須ではないことが明らかになった。さらに,根の様々な組織特異的プロモーターの制御下でGFP融合MIZ1を発現する系統の作出と解析を行い,シロイヌナズナにおいてMIZ1が根の伸長領域の皮層細胞で機能することが水分屈性発現に必要十分であることを明らかにした。また,同じ部位でのアブシシン酸応答も水分屈性に必要なことも明らかになり,シロイヌナズナにおいては,根の伸長領域において水分勾配刺激がアブシシン酸応答やMIZ1発現といった生物学的情報へ変換されることが明らかになった。同様の実験をMIZ2についても実施し,MIZ2もまた根の伸長領域の皮層細胞で機能することが水分屈性発現に必須であることが明らかになった(投稿準備中)。根端の外科的な除去実験を行なったところ,キュウリやイネ,ミヤコグサにおいても根端細胞は水分屈性に必須でないことが明らかになった。生理学的解析の結果,キュウリとイネでは水分屈性発現にオーキシンの極性輸送が必須であること,ミヤコグサではオーキシンの極性輸送は水分屈性に必須でないことも明らかになった。これまでの解析からエンドウでは水分勾配の感受部位が根端であること,オーキシンの極性輸送が水分屈性発現に必須であることが明らかにされており,本研究の結果と合わせると,水分勾配刺激の感受部位と,刺激情報の伝達機構は,種分化とともに進化していったものと考えられた。
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