研究課題/領域番号 |
17K07436
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
伊藤 光二 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (50302526)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ミオシン / アクチン / 分子モーター / モータータンパク質 / 原形質流動 / 選択的結合性 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
植物細胞においてはアクチン繊維が物質輸送の主要な輸送レールを担っている。細胞表層と原形質糸には束化したアクチン繊維が極性を同じ方向に揃えて配向しており(原形質流動レール),この上をミオシンXIが運動することにより原形質流動とよばれる一定方向の流れが生じている。アクチン繊維は原形質流動レール以外に,様々な物質を特定の目的地に運ぶための専用輸送レールとしても機能している。このような多様な機能をおこなうために,シロイヌナズナにおいて8種のアクチンアイソフォームが,13種のミオシンXIアイソフォームおよび,重合,脱重合,束化等を制御する多様なアクチン結合タンパク質と相互作用し,複雑かつ高度に制御されたアクチン輸送ネットワークを構築している。 本研究は植物細胞において,(1)アクチン繊維が極性を同じ方向に揃えて配向する機構の解明および,(2)様々な物質を特定の目的地に運ぶための専用輸送レールとしての機構の解明を目的とした。令和元年度においては(1), (2)の両方に大きな進展があった。 (1)蛍光顕微鏡観察により,シロイヌナズナのミオシンXIのMYA2は単頭のモータードメイン(MD)のみでアクチン繊維を束化することがわかった。さらに,AFMによる観察の結果,この束化には,これまで役割が未定であったミオシンモータードメインのN末端サブドメインがアクチン繊維と結合することによりおきることがわかった。また,N末端サブドメインのアクチン繊維の結合は,アクチン繊維同士の極性が揃っているときのみおきた。 (2)シロイヌナズナのアクチンのアイソフォームのACT2, ACT7を用いてMYA2 MDの選択結合性を定量的に検証したところ,ACT7に80%, ACT2に20%結合することがわかった。これにより,ミオシンアイソフォームはアクチンアイソフォームに対する選択的結合性があるすることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)アクチン繊維が極性を同じ方向に揃えて配向する機構の解明,(2)様々な物質を特定の目的地に運ぶための専用輸送レールとしての機構の解明,のいずれも下記のように順調に進んでいる。 (1) について: MYA2のモータードメイン(MD)をアクチン繊維と混ぜてAFMで観察したところ,MYA2 MDは単頭であるにもかかわらず,アクチン繊維を束化することがわかった。さらに,MYA2MDのX線結晶構造解析に成功した(クラスXIミオシンの世界初の結晶化成功)。MYA2MDの結晶構造とAFM像を重ねあわせることにより,MYA2 MDは従来の知られているアクチン結合領域であるモータードメインの中のUpper50Kサブドメインから Lower50Kドメインにかけての領域だけでなく,N末端サブドメインとも結合することが明らかになった。ミオシンは発見から約80年経過するが,アクチンとの結合領域はモータードメインの中のUpper50Kサブドメインから Lower50Kドメインにかけての領域しか知られておらず,N末端サブドメインでの結合は驚きである。AFMによる観察から,N末端サブドメインとアクチン繊維との結合が起こるのは通常のアクチン結合領域(Upper50Kサブドメインから Lower50Kドメインにかけての領域)で結合しているアクチン繊維と同じ極性のものに限ることがわかった。これによりMYA2により「極性を揃えたアクチン繊維の束化」が成し遂げられることがわかった。 (2)について: シロイヌナズナには8種のアクチンアイソフォームが存在する。このうち,栄養成長で主に発現しているACT2とACT7を対して,MYA2の選択的結合性があるのか検証した。アクチン繊維の束化が起きていない状態で定量実験を行ったところ,ACT7に80%, ACT2に20%結合することがわかり,選択的結合性があることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)アクチン繊維が極性を同じ方向に揃えて配向する機構の解明について (a)束化活性の定量化:アクチン繊維を遠心沈殿させるためには通常は超遠心(100,000 G)で10分から20分間の遠心が必要であるが,束化したアクチン繊維は低速遠心(10,000 G程度)を数分間行うだけで沈殿する。MA2 MDとアクチン繊維を様々な量比で混ぜて低速遠心し,supとpptにおけるアクチンの量比を比べることにより束化活性の定量化をおこなう。束化活性の定量化はMYA2MDのみならず,XI-K, MYA1などシロイヌナズナの他のミオシンXIアイソフォームのMDで行う。 (b) N末端サブドメイン内におけるアクチン結合部位の絞り込み:ゼロレングスクロスリンカーのEDCを用いて,MYA2 MDとアクチンの化学架橋を行い,質量分析により結合領域のアミノ酸を絞り込む。 (2)様々な物質を特定の目的地に運ぶための専用輸送レールとしての機構の解明について: MYA2 MDのアクチンアイソフォームに対する選択結合性をACT2, ACT7以外の6つのシロイヌナズナのアクチンアイソフォームについても行う。さらに,MYA2 以外のXI-K, MYA1などシロイヌナズナの他のミオシンXIアイソフォームのMDについても様々なシロイヌナズナのアクチンアイソフォームとの選択的結合性を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 年度内の論文投稿を準備して実験していたが,最終段階で想定外の良い結果が出て,それを実証するための実験が必要となり,実験の終了が4月以降になり,また,論文の投稿も4月以降になったため,実験試薬および論文投稿の経費が4月以降に必要のため。 使用計画:昆虫細胞培養液,英文校正,論文投稿に使用する。
|