植物細胞においてはアクチン繊維が物質輸送の主要な輸送レールを担っている。細胞表層と原形質糸には束化したアクチン繊維が極性を同じ方向に揃えて配向しており(原形質流動レール),この上をミオシンXIが運動することにより原形質流動とよばれる一定方向の流れが生じている。アクチン繊維は原形質流動レール以外に,様々な物質を特定の目的地に運ぶための専用輸送レールとしても機能している。このような多様な機能をおこなうために,シロイヌナズナにおいて8種のアクチンアイソフォームが,13種のミオシンXIアイソフォームおよび,重合,脱重合,束化等を制御する多様なアクチン結合タンパク質と相互作用し,複雑かつ高度に制御されたアクチン輸送ネットワークを構築している。本研究は植物細胞において,(1)アクチン繊維が極性を同じ方向に揃えて配向する機構の解明おび,(2)様々な物質を特定の目的地に運ぶための専用輸送レールとしての機構の解明を目的とした。 2020年度においては(1)に進展があった。これまでの研究で、蛍光顕微鏡観察から,シロイヌナズナのミオシンXIのMYA2は単頭のモータードメイン(MD)のみでアクチン繊維を束化することがわかった。さらに,AFMによる観察の結果,この束化には,これまで役割が未定であったMDのN末端サブドメインがアクチン繊維と結合することによりおきることがわかった。また,N末端サブドメインのアクチン繊維の結合は,アクチン繊維同士の極性が揃っているときのみ生じた。2020年度の研究により、MYA2MDによるアクチン繊維の束化は、蛍光顕微鏡観察だけでなく、アクチン繊維との低速遠心共沈によっても確認した。さらに、MDのN末端サブドメインを介しての束化は、すべてのミオシンXIではなく、「原形質流動をおこしているミオシンXI」であるMYA2に特化したものということがわかった。
|