研究課題/領域番号 |
17K07437
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉山 宗隆 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50202130)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トレニア / シロイヌナズナ / シュート再生 / 表皮細胞 / 脱分化 / 細胞分裂 / シュート頂分裂組織 / 不定芽 |
研究実績の概要 |
トレニアの茎断片培養系において、シュート再生に対するサイトカイニンと光の影響を調べ、その結果に基づいて、1 mg/lのベンジルアデニン(BA)を添加して連続明で培養する条件をシュート再生が安定して高頻度で起きる標準条件、BAを添加せずに連続明で培養する条件とBAを添加して暗所で培養する条件をシュート再生頻度がきわめて低い対照条件として設定した。各条件について、核の染色性に基づいて脱分化を評価するとともに、細胞分裂の開始から不定芽のシュート頂分裂組織(SAM)に至るまでの細胞分裂の様相を連続観察等により追跡した。その結果、脱分化は茎断片を切り出す操作それ自体によって誘起され、脱分化後の細胞分裂の活性化にサイトカイニンと光が関与すること、SAMの領域は細胞分裂がある程度進んでから決定されることなどが示唆された。 トレニアの主要なSAM制御遺伝子ホモログを同定し、シュート再生過程におけるそれらの発現変動をRT-qPCR解析により検討した。さらにRNA-seqによりトランスクリプトームデータを取得し、クラスタリング等の解析を行って、遺伝子発現プロファイルを明らかにし、傷害応答経路がはたらいている可能性などを示した。 トレニアの形質転換体を作出し、挿し木によって殖やした後に、茎断片を培養してシュート再生を誘導するモデル実験を成功させ、効率的な実験サイクルの確立に目処をつけた。 シロイヌナズナを用いた解析では、変異原処理を行ったrgd3の後代を探索し、抑圧変異体候補を1株見出した。また、2段階式シュート再生系において、カルス誘導段階のIAA生合成阻害がシュート再生能を高めることを発見し、内生IAAが再生能を負に制御していることを初めて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初には、トレニアについては、形質転換、栄養繁殖、茎断片からのシュート再生を組み合わせ、シュート再生研究のための効率的な実験サイクルを確立すること、茎断片からのシュート再生過程について、クロマチン構造変化や細胞分裂、SAM制御遺伝子発現などの諸事象の時空間的進行を記載すること、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行うことを、シロイヌナズナについては、2段階培養系において、シュート再生時のSAM新構築に関し顕著な温度感受性を示すrgd3変異体を用い、SAM新構築に焦点を当てたトランスクリプトーム解析を行うことと、変異原処理を施したrgd3後代のスクリーニングにより、rgd3抑圧変異体を単離することを、それぞれ計画した。これらのうち、シロイヌナズナのrgd3を用いたトランスクリプトーム解析以外は、ほぼ達成することができた。シロイヌナズナでは、IAA生合成阻害剤がカルスのシュート再生能を高めるという予期せぬ発見があったため、rgd3のトランスクリプトーム解析を延期して、再生能制御における内生IAAの役割を追究したが、それに値する興味深い結果が得られた。全体として見れば、本研究は概ね順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度のRNA-seq解析により、トレニア茎断片培養系のシュート再生について、トランスクリプトームデータを取得したので、新年度は主としてこれを基盤として研究を進める。遺伝子発現プロファイルを分析し、脱分化、細胞分裂活性化、SAM新構築の各過程について、密接に連関する遺伝子群を特定する。特定した遺伝子の中から、とくに重要と思われるもの、興味深いものを選抜し、RT-qPCR解析により、様々な条件における時間的発現パターンの詳細を明らかにするとともに、in situハイブリダイゼーションにより、空間的発現パターンを明らかにする。また、SAMのパターン形成開始に関わる可能性が高い遺伝子については、各遺伝子のレポーターを作製してトレニアに導入し、SAM構築前後の発現パターンをライブで観察できるようにする。これを活用して、SAM構造の自律的構築の仕組みを追究していく。 昨年度までの研究から、トレニア茎断片培養系では、茎断片を切り出す操作それ自体が傷害応答経路を介して脱分化を誘導すること、脱分化に伴って核小体が発達することが示唆されている。脱分化過程での核構造の変化を、各種の特異的蛍光プローブを用いた観察等により詳しく記載し、これらの核構造の変化を指標に、脱分化の誘導要因を広く調査する。 当初計画の一部に含めていた、シロイヌナズナの2段階培養系におけるシュート再生の解析は、内容を拡大して他のプロジェクトで本格的に取り組むことになった。これを受けて、本研究では今後、シロイヌナズナ2段階培養系を用いた解析は副次的な位置づけに移し、その分トレニア茎断片培養系を用いた解析に注力する予定である。
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