本研究では、トレニアの茎断片培養系における表皮からの直接シュート再生を対象に、脱分化とシュート頂分裂組織新構築に関し、主に細胞学的解析とトランスクリプトーム解析を行ってきた。トランスクリプトームについては、クラスター解析やGOエンリッチメント解析により、遺伝子発現の全体的パターンとその特徴を捉え、高オーキシン培地で中心柱からカルスが生じ、高サイトカイニン培地への移植でシュート頂分裂組織が構築される、シロイヌナズナの2段階シュート再生系とは異なり、オーキシンで発動する側根形成経路が関与しないことを示した。脱分化過程では、傷害とサイトカイニンに応じてリボソーム生合成遺伝子の発現が増大し、これを反映して核小体が著しく発達することも見出した。2019年度はこれらの解析をさらに推進し、トレニアの遺伝子とシロイヌナズナの遺伝子とを包括的に対応付け、トレニア茎断片培養系で取得したRNA-seqデータとシロイヌナズナの各種トランスクリプトームデータとを比較分析して、植物種や組織、経路によらず脱分化に普遍的に関わる可能性がある遺伝子群を同定した。また、トレニア表皮細胞の脱分化過程で見出したサイトカイニン依存的な核小体の発達が、シュート再生能をもたないシロイヌナズナの表皮細胞でも起きることを発見した。核小体が発達したシロイヌナズナの表皮細胞は、それ以上の変化を示さず、細胞分裂が再開することはなかった。この結果から、表皮の脱分化からシュート頂分裂組織の新構築に至る過程において、第一の鍵を握るのは、サイトカイニンへの初期応答や核小体の発達ではなく、それ以後の細胞分裂活性化の段階であることが示唆された。
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