研究課題/領域番号 |
17K07439
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小林 勇気 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (80644616)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物ホルモン / 藻類 / Cyanidioshyzon merolae / シグナル伝達 / 進化 |
研究実績の概要 |
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は近年の研究から植物・動物問わず、広い生物種間で発見されている。しかし、陸上植物以外におけるABAの機能やその制御メカニズムを解き明かした例は驚くほど少ない。特に受容体を始めとするシグナル伝達機構は陸上植物以外では不明な点が多く、ABAシグナル伝達の進化における大きな謎である。申請者は、原始紅藻Cyanidioshyzon merolae(シゾン)にもABAが存在し、高塩濃度環境での生存性を高めていることを明らかにした。また、陸上植物のABAシグナル伝達因子の一部がシゾンでも保存され、機能していることも発見した。しかし、シグナル伝達の要である受容体の発見には至っていない。そこで本研究では藻類におけるABA受容体の探索とシグナル伝達系の解明を目的とした。本研究では、以下のストラテジーでABA受容体の探索とシグナル伝達系の解明を行うことを計画している。(1)質量分析によるABAレセプターの探索、(2)酵母2ハイブリッド系によるABAレセプター及びABAシグナル伝達関連因子の探索、(3)陸上植物のABAレセプター候補因子のシゾンでの機能解析、(4)ABA応答遺伝子の特定、(5)ABAシグナル伝達に関わる因子の網羅的スクリーニング、(6)モデルの検証と高等植物への応用。本年度は(1)、(2)、(3)について解析を行った。この内(1)と(2)に関しては予想以上に候補が得られ、従来通りの方法では検証が困難であると考えられた。そこで、新規のin vivo共発現系を開発した。現在この方法でタンパク質間相互作用を検証中である。(3)については陸上植物におけるABAレセプター候補を検証したが、これらはシゾンでは機能していないように見える。次年度以降(1)(2)の検証を進めると共に、(4)以降の解析を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は(1)質量分析によるABAレセプターの探索、(2)酵母2ハイブリッド系によるABAレセプター及びABAシグナル伝達関連因子の探索、(3)陸上植物のABAレセプター候補因子のシゾンでの機能解析について解析を行った。(1)及び(2)ですべてのコンポーネントに対する候補を得た。予想よりも大量の候補が得られたが、これらは偽陽性の可能性を秘めているため、in vivo もしくは in vitroで検証する必要がある。組み換えタンパク質や、形質転換体による検証を試みたが、数が多く検証困難であると判断した。そこでより簡便で迅速に相互作用をin vivoで検証する方法を開発した。本方法は、一過的な発現系であり、簡便に細胞内で発現したタンパク質同士の相互作用を検証する。ジョイントPCRにより、標的にプロモーターとエピトープタグを付加した断片を直接細胞内へ導入し標的タンパク質を発現させる。クローニングの必要がないため迅速で低コストであり、2種類以上の異なる断片も同時に発現することが可能である。発現させた細胞からタンパク質を抽出しプルダウン法によりタンパク質間相互作用を検証できる。現在この方法を用いて候補から本当の相互作用を選定中である。(3)に関しては、レセプター候補であるChlHについて遺伝子破壊株の作成を行った。しかし、破壊株は作出できなかったため、過剰発現株、アンチセンス株を作出したが、ABA添加による下流遺伝子発現の変化は確認されなかった。このことから、シゾンではABA シグナル伝達にはChlHは関係していない可能性が示された。もう一方のレセプター候補であるGタンパク共役受容体ファミリーであるシロイヌナズナGCR2, GTG1のホモログCmGCR2も同様に遺伝子破壊株は作出されなかった。現在、過剰発現株、アンチセンス株を作出し、表現型の観察を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は (1)(2)から得られた候補を新規形質転換法により引き続き検証する。また(3)陸上植物のABAレセプター候補因子のシゾンでの機能解析、(4)ABA応答遺伝子の特定、(5)ABAシグナル伝達に関わる因子の網羅的スクリーニングを進め、ABA受容から遺伝子発現までの伝達経路の流れを明らかにする。当初の予定通り、ABAシグナル伝達に関わる全ての因子を特定するのではなく、主要な経路を滞りなく繋げていくことを優先する。
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