研究課題/領域番号 |
17K07442
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
長尾 遼 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (30633961)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 光合成 / 植物・藻類 / 赤外分光 |
研究実績の概要 |
植物、藻類、シアノバクテリアのチラコイド膜内に存在する光化学系II膜タンパク質(PSII)は、水を分解し酸素を発生する光反応酵素タンパク質である。本研究は、光合成水分解反応の各素反応に関与するアミノ酸の部位特異的変異体を作成し、変異体から精製したPSIIを用いて赤外分光測定による詳細な反応機構の解明を目指している。 光エネルギーを利用し電荷分離反応を行う反応中心クロロフィルP680はクロロフィルの二量体(PD1, PD2)を形成する。電荷分離後にPD1およびPD2のどちらに正電荷が多く蓄積するのか明らかにするために、P680近傍に位置するアミノ酸D1-Val157, D2-Val156に変異導入し、赤外分光解析した。その結果、正電荷はPD1側に多く分布することを実証した。この内容を論文として纏めた。 水分解反応で生じるプロトンがどの水素結合ネットワークを経て膜外へと放出されるのか明らかにするために、酸化還元活性のあるD1-Tyr161残基を経由する水素結合ネットワーク上のアミノ酸D1-Asn298に変異導入し、精製PSIIを試料とし赤外分光解析した。その結果、このネットワークがプロトン移動経路として機能することが判明した。この内容を論文として纏めた。 赤外分光測定するにあたり、これまでは単離したPSII標品を用いてきた。しかし、精製過程においてPSIIの失活が容易に起こり得るため、安定なチラコイド膜における測定が求められていた。ホウレンソウからチラコイド膜を単離し、赤外分光測定の可能性を模索した。その結果、PSIIの水分解反応シグナルを検出することに成功した。この内容を論文として纏めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、三つの変異体(D1-N298A, D1-V157H, D2-V156H)からPSIIを精製し、赤外分光解析を行い、プロトン放出反応および電荷分離反応の解明に従事した。またチラコイド膜での赤外分光測定の可能性を見出した。それぞれの内容で三つの論文を纏めたため、順調に進んでいるといえる。 しかし、PSII内の各補欠因子近傍のアミノ酸やプロトン放出経路上のアミノ酸に関する変異体は数多くあり、未だそのほとんどは手つかずの状態である。現在、新たな変異体の解析に着手している。
|
今後の研究の推進方策 |
変異体の数が多いため、主としてプロトン放出とクロロフィル励起三重項状態の解明に向けた研究を進める。 予想されているプロトン放出経路は4つあり、そのうちの1つであるD1-Asn298経路についての解析が本年度終了した。残りの3つの経路に着目し、主要なアミノ酸をターゲットとし、赤外分光解析を進めていく。 PSIIには過剰な光励起エネルギーを消光する機構が備わっている。クロロフィル励起三重項はPSII内の消光反応に関与しているが、どのクロロフィルに局在するか明らかではない。現在、局在箇所として予想されているクロロフィル近傍のアミノ酸変異体からPSIIを精製している。 また、チラコイド膜での赤外分光測定の有効性を見出したことから、変異体からチラコイド膜を調製し、赤外分光法による変異体のスクリーニングを行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:物品費・旅費・その他において差額が生じた。物品費においては新たな所属研究室にタンパク質精製装置など各種生化学設備が整っており、購入の必要がなくなったことが理由である。旅費においては、予定していた国際学会に参加しなかったことが理由である。その他においては、論文の投稿費がかからなかったことが理由である。
使用計画:シアノバクテリアや藻類の細胞破砕のための装置が150万円するため、物品購入費に充てる。
|