研究課題
酸素発生型光合成生物のチラコイド膜内に存在する光化学系II(PSII)は、水を分解し酸素を発生する光反応タンパク質である。光合成水分解反応は5つの反応中間体を持ち、各反応ステップにおいてプロトンおよび酸素の放出、水の取り込みが生じる。この反応サイクルが一周することにより、4つのプロトンと1分子の酸素が結果として放出される。本研究は、光合成水分解反応の各素反応に関与するアミノ酸の部位特異的変異体を作成し、変異体から精製したPSIIを用いて赤外分光測定による詳細な反応機構の解明を目指す。赤外分光法はタンパク質反応で生じる振動構造の変化を原子・分子レベルで解明する手法であり、当該研究分野において広く用いられている。水分解反応で生じるプロトンがどの水素結合ネットワークを経て膜外へと放出されるのか明らかにするために、マンガンクラスターを構成する酸素原子(O4)を経由する水素結合ネットワーク上のアミノ酸D1-Ser169に変異導入し、その特性を解析した。細胞における酸素発生活性は、野生株に比べ、若干減少した。次にPSIIを精製し、フーリエ変換赤外分光解析した。D1-Ser169Ala変異体は、各反応を大きく阻害することは無かったが、水素結合構造の変化が示された。これらの結果は、このネットワークがプロトン移動経路としてではなく水分子の輸送経路として機能することを示唆する。現在、各反応ステップの時定数を求めるために、時間分解赤外分光解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、D1-Ser169AlaからPSIIを精製し、熱発光分析やフーリエ変換赤外分光および時間分解赤外分光解析を主として行った。PSII精製から赤外分光解析までできたため、順調に進んでいるといえる。しかし、PSII内の各補欠因子近傍のアミノ酸やプロトン放出経路上のアミノ酸に関する変異体は数多くあり、未だそのほとんどは手つかずの状態である。現在、新たな変異体の解析に着手している。
予想されているプロトン放出経路は4つあり、そのうちの2つ、D1-Asn298経路とD1-Ser169経路、についての解析が終了した。残りの2つの経路に着目し、主要なアミノ酸をターゲットとし、赤外分光解析を進めていく。また、水分解反応の活性中心であるマンガンクラスターのアミノ酸配位子のうち、重要と考えられているD1-Asp170の変異体解析を行う。タンパク質の質量分析と組み合わせることにより、D1-Asp170の変異体が構築されていることを確認する。
旅費の使用が当初の計画に比べ少なかったため、差額が生じたと考えられる。翌年度では消耗品費に充てる予定である。
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