研究課題
酸素発生型光合成生物のチラコイド膜内に存在する光化学系II(PSII)は、水を分解し酸素を発生する光反応タンパク質である。本研究は、光合成水分解反応の各素反応に関与するアミノ酸の部位特異的変異体を作成し、変異体から精製したPSIIを用いて赤外分光測定による詳細な反応機構の解明を目指す。水分解反応で生じるプロトンがどの水素結合ネットワークを経て膜外へと放出されるのか明らかにするために、マンガンクラスターを構成する酸素原子(O4)を経由する水素結合ネットワーク上のアミノ酸D1-Ser169に変異導入し、精製PSIIを試料とし赤外分光解析した。フーリエ変換赤外分光および時間分解赤外分光測定により、各S状態遷移におけるD1-S169A変異の影響が小さいことを見出した。一方、熱発光測定の結果、D1-S169がマンガンクラスターの酸化還元電位に寄与することが判明した。このことは、O4を経由するネットワークがプロトン移動経路としてではなく水分子の輸送経路として機能することを示唆する。以上の成果を論文として纏めた。マンガンクラスターにはいくつかのアミノ酸が配位子として結合する。このうちD1-Asp170をHisへ置換する変異導入を行い、精製PSIIを試料とし赤外分光解析した。得られたスペクトルは野生株と全く同じであった。質量分析の結果、変異体のD1-D170のサイトに変異が入っていないことが判明した。変異体細胞の全ゲノムシーケンスをしたところ、ゲノム上ではたしかに変異導入されていた。培養条件を検討したところ、興味深いことに、従属栄養条件下でのみD1-D170Hの変異がタンパク質レベルで有意に確認された。これらの結果は、光合成生物にとって必須であるマンガンクラスター周辺のアミノ酸は、培養条件により翻訳システムが変わることを示しているのかもしれない。以上の成果を論文として纏めた。
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