研究課題/領域番号 |
17K07446
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩野 恵 京都大学, 生命科学研究科, 研究員 (50160130)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 苔類ゼニゴケ / カルシウム / 生殖過程 / ライブセルイメージング / 精子誘引 / 受精 |
研究実績の概要 |
被子植物の生殖は、花粉の柱頭への受粉過程ではじまり、花粉管の胚珠への誘引を経て、受精へと至る。これら一連の過程では、雌蕊と花粉との細胞間コミュニ ケーションにより適切な花粉が選抜される。研究代表者はこれまでに、この細胞間コミュニケーションに、カルシウムイオンや活性酸素が関与することを示し、他家・自家受粉時に機能する雌蕊側カルシウム輸送体の実体を明らかにしてきた。一方、進化的に陸上植物の基部に位置する苔類ゼニゴケは、雌雄異株であり、配偶体世代が優勢な生活環を有している。雄株造精器からの精子が雌株造卵器の卵細胞に誘引されて受精が成立することが知られており、この一連の受精過程においてもカルシウムイオンを介した情報伝達系の存在が予想されるがその詳細はほとんど知られていない。本研究の目的は、励起光なしでカルシウムシグナルを高光度・高感度・高分解能で測定できる蛍光・発光システムを用いて、生殖過程におけるカルシウムイオンを介した情報伝達系の詳細を明らかにすることである。これまでに、被子植物シロイヌナズナを用いて、花粉管誘因から受精に至る過程での花粉管、助細胞のカルシウム動態を可視化するシステムを構築しており、ゼニゴケについてもこのシステムを応用して、生殖過程のカルシウム動態を可視化するシステムの開発を行ってきた。現時点で、卵細胞、卵細胞周辺や 造卵器頚部の細胞で発現する遺伝子を利用して、受精過程における卵細胞と周辺細胞のカルシウム動態を可視化できる形質転換体が得られた。今後、このシステムを最適化するとともに、受精時のライブセルモニタリングを進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 被子植物については、シロイヌナズナに低親和性から高親和性までの各種のカルシウムセンサーを小胞体や細胞質で発現させて、花粉管誘因から受精 に至る過程での花粉管、助細胞のカルシウム動態解析を進めてきた。その結果、胚珠の助細胞と花粉管との細胞間相互作用にカルシウムイオンを介したシグナル伝達系の存在が明らかになった。また、卵細胞と精細胞の融合が阻害される突然変異体のイメージング解析により、卵細胞膜上での精細胞の融合位置が明らかになった。しかし、被子植物では精細胞は花粉管の中に内包されており、受精過程において卵細胞と精細胞との直接的な相互作用にカルシウムが関わっているかどうかをイメージングにより解析することは難しい。 そこで研究代表者は、卵細胞と精細胞間の相互作用を詳細に解析するために、苔類ゼニゴケを用いたカルシウムイメージングシステムを構築することとした。なぜならばゼニゴケは進化的には基部陸上植物という位置にあり、多くの生理現象が陸上植物に共通であることが知られているからである。初めに、プロモーター解析により卵細胞、卵細胞周辺の組織、造卵器の頚部細胞などで高発現である遺伝子を見出した。次に、ゲノム編集株の解析により、当該遺伝子が生殖器托の形態形成や生殖過程で機能することを見出した。さらにプロモーター下流にカルシウムセンサータンパク質遺伝子を繋いだコンストラクトを作製して植物体に導入することで、受精時の卵細胞、卵細胞周辺の組織、造卵器の頚部細胞のカルシウム動態を可視化できるゼニゴケ形質転換体をえた。 今後、この植物体を最適化すると共に、in vivo、in vitro,、semi-in vivoの受精システムを用いてライブセルイメージングの手法を確立する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)2019年度には、生殖過程における精子と卵細胞とのカルシウム動態を可視化するために、造卵器の卵細胞、卵細胞周辺の組織、頚部細胞でカルシウムセンサータンパク質を発現する形質転換体を作出した。そこで本年度は、この植物体を用いてin vivo、in vitro、semi-in vivoの受精過程の観察系を構築する。従来の高感度CCDカメラを接続した顕微鏡システムを使用し、in vitroシステムでは、雌器托から造卵器を取り出して観察する。semi-in vivoでは、造卵器を雌器托から切り離すことなく切片などを作製して観察する。観察は、精子添加前、造卵器へ精子が誘引される時期、精子が造卵器に誘引された後に卵細胞表面に到達する時期、精子と卵細胞の融合時期に分けて、カルシウム動態を可視化する。上記の情報を基にin vivoでは、雌器托の形状を完全に保持した状態で観察する。 2)光刺激により活性酸素を発生させるオプトジェネティックツールについては、シロイヌナズナでは活性酸素の消去系が発達しており、動物細胞で見られたような細胞死の誘導には至らなかった。そこで、上記の形質転換体に活性酸素発生型のオプトジェネティックツール遺伝子を導入して、光刺激により卵細胞などの生殖細胞カルシウム変動が誘起されるかどうかを調べる。 3)被子植物シロイヌナズナの生殖過程については、卵細胞と精細胞の融合が阻害される突然変異体のイメージング解析により、卵細胞膜上での融合部位が明らかになったので、その詳細を電顕トモグラフィー解析により明らかにする。これは当初研究計画には含まれていなかったが、新たな知見が得られたことにより追加して研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本申請では、陸上植物の生殖過程で機能することが予想されるカルシウムシグナルを介した情報伝達系の解明を目的として、 被子植物シロイヌナズナと基部陸上植物苔類ゼニゴケによる発光カルシウムイメージング系の構築を行った。ゼニゴケでの発光イメージングについて、想定以上に時間を要したことにより論文の作成が遅れ、2020年度に論文投稿を予定している 。そのために本補助事業期間の延長を申請する。
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