多段階からなる複雑な二次代謝系を包括的に制御するマスター転写因子の存在が近年明らかとなってきた。特定のサブファミリーに属する転写因子群は、さまざまな植物種において、系統特異的な防御性二次代謝系を制御する。ナス科薬用植物より転写因子をクローニングし、アルカロイド生合成系を制御する転写因子を同定する。転写因子の機能強化により、植物における有用アルカロイド高生産系の確立を目指す。 タバコの根において、ニコチン経路に含まれる一連の生合成遺伝子は1対のJA応答性ERF転写因子ERF189とERF199によって協調的に転写活性化される。これら転写因子の発現改変のニコチン生合成への影響を解析した。N.alataおよびN.benthamianaの葉においてERF189を一過的に過剰発現することでアルカロイド合成・蓄積を誘導できた。また、この誘導はbHLHファミリー転写因子MYC2を共発現することでより増大した。ERF189を構成的もしくは葉特異的に過剰発現することで葉におけるアルカロイド蓄積を増大することができたが、植物の生育には悪い影響があることが分かった。一方、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術によりERF189とERF199を破壊した場合、植物の生育には影響を与えることなく、顕著なアルカロイド蓄積の抑制がみられた。ニコチン経路の改変は広範な含窒素及び含炭素化合物の蓄積に影響を及ぼすことが代謝プロファイリングによって分かった。
|