研究課題/領域番号 |
17K07450
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小泉 望 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20252835)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 小胞体 / RNA分解 / シロイヌナズナ / ゼニゴケ / 種子貯蔵タンパク質 |
研究実績の概要 |
タンパク質の機能発現には正しいフォールディングが必要である。小胞体膜上のリボソームで合成されるタンパク質のmRNAの多くはストレス等によりそのコードするタンパク質のフォールディングが阻害されると、小胞体膜上のセンサータンパク質IRE1が持つRNase活性により分解される。このmRNA分解はRIDDと呼ばれフォールディング異常タンパク質の小胞体への流入軽減に働くと考えられる。一方、IRE1は転写因子bZIP60のmRNA分解(細胞質スプライシング)にも関わる。細胞質スプライシングの結果bZIP60は小胞体シャペロンの誘導に働く。つまり、IRE1は小胞体膜上の2つのRNA分解機構により小胞体の恒常性維持に働く。しかし、こうした2つの分解機構の使い分けや分解機構の生理機能への関与は植物では必ずしも明らかでない。そこでこうした疑問に答えるために、H29年度にはIRE1に着目し、主としてシロイヌナズナを用いて、次の項目で研究を実施した。1)RIDDにより分解される分泌性タンパク質のmRNAとタンパク質機能の相関、2)ゼニゴケを用いた個体レベルでの機能欠損の解析、3)RIDDにより切断されるmRNAの標的配列の同定、4)RIDDにおけるmRNAの分解に働くRNaseの同定、5)bZIP60の細胞質スプライシングにより生じる新たなORFの機能。H30年は1)、2)、3)、5)の項目を継続して研究するとともに新たに6)として、構造異常タンパク質の蓄積とIRE1の関係を調べるために種子貯蔵タンパク質への変異導入を行った。それぞれの進捗状況については以下に記載する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)小胞体ストレス時にはRIDDによりmRNAが分解されるがIRE1欠損株ではmRNA分解は起こらない。その際のタンパク質の翻訳をモニターできる系の確立を目指した。具体的にはRIDDの標的となることが分かっているSP-GFP(シグナルペプチドを付加したGFP)をDEXにより誘導できる植物の作出を行った。しかし、DEX添加無しでも相当量のタンパク質が発現してしまい解析が困難であった。その原因を調べている。 2)ゼニゴケのIRE1並びにbZIP60ホモログをCRIPR/Cas9により破壊したところBiPの誘導が見られなくなりIRE1破壊株は糖鎖合成阻害剤ツニカマイシンに明らかな感受性を示した。また野生型と比べて生育遅延を示した。この結果はシロイヌナズナで見られる現象とほぼ同じであり、ゼニゴケを用いてRIDDに関する解析が可能であると考えられた。 3)IRE1により切断されるmRNAの末端が特殊な構造を持つことを利用して、RIDDにより分解されたmRNAの末端の同定を試みたが、末端配列の網羅的な同定には至らなかった。 5)シロイヌナズナのプロトプラストを用いた一過性発現系において新奇ORFを付加したbZIP60は強い活性化能を示した。従って、新奇ORFが活性化に寄与していると考えられた。さらに欠失型ORFを作成して実験を行ったところ一部の配列が重要であることがわかった。またタンパク質量を調べたところ新奇ORFの付加によりbZIP60タンパク質の蓄積量が増加することが明らかになった。 6)ツニカマイシンなどの薬剤処理ではなく細胞自律的に小胞体ストレスを誘導し、IRE1欠損の効果を調べることとした。そのためにシロイヌナズナの種子貯蔵タンパク質である12Sアルブミン(CRC)のシグナルペプチドが切断されない変異型CRC(mCRC)を発現するシロイヌナズナを作出した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たるH31年度は、研究の進捗が期待できる5)bZIP60の細胞質スプライシングにより生ずる新奇ORFの機能解析と6)細胞自律的に小胞体ストレス応答を起こすシロイヌナズナの解析に焦点を当てて研究を進める。 5)に関しては新奇ORFが付加されることによる転写活性の増大がタンパク質量によるものか、活性化能そのものによるものかタンパク質量の増加によるものか調べる。また、新規ORF中のこの転写活性化能の増加に関わる箇所(アミノ酸配列)を同定する。ORFの付加によりタンパク質量が増加するのであれば、他のタンパク質(例えばGFP)にこの配列を付加し、その効果を検証する。さらに他の転写因子に融合させた場合の転写活性化能のついても調べる。新奇ORFが他のタンパク質の安定性や転写活性化能の増強に効果的に働くのであればタンパク質生産や遺伝子の発現調節などにおける応用が可能になると考えている。 6)についてはmCRCの発現により小胞体ストレス応答のマーカーであるBiP3のタンパク質の蓄積が観察されることから小胞体ストレス応答が起こっているという予備的データを得ている。また種子の形態が異常になることも認めている。そこで小胞体ストレス応答が惹起されていることを確認するとともに電子顕微鏡観察により種子のオルガネラ構造を観察する。これらの結果は野生型にmCRCを発現させた際に見られている現象であり、IRE1遺伝子破壊株でmCRCを発現させた場合の表現型を調べる。予備的なデータではあるが捻実性が大きく低下することが示唆されており、IRE1の種子貯蔵タンパク質の形成への重要性がしさされる。この観察結果をサポートするデータを多方面から取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、IRE1により切断されるmRNAの末端が特殊な構造を持つことを利用して、RIDDにより分解されたmRNAの末端の網羅的な同定を予定していた。この実験には次世代シーケンサーの利用を計画していたが、実験手法の確立に至らなかったため次世代シーケンサーを使用せず、次年度使用額が生じた。
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