研究課題/領域番号 |
17K07451
|
研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
芳賀 健 日本工業大学, 工学部, 准教授 (50382031)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 光環境応答 / 光順応性 / 光屈性 / 胚軸 / シロイヌナズナ / リン酸化制御 |
研究実績の概要 |
植物は非常に広範囲な光条件に順応する機構を備えている。しかし、その分子メカニズムは未だに解明されていない。我々の研究グループは、青色光シグナル伝達因子であるNON PHOTOTROPISM HYPOCOTYL3 (NPH3)の機能制御にROOT PHOTOTROPISM2 (RPT2) が必須であり、その分子機構が植物の光順応に極めて重要であることを示した。本研究は、RPT2及びNPH3の機能に注目して研究を進めることで、植物の光環境順応メカニズムを解明することを目的として計画されている。 1)青色光によるNPH3のリン酸化制御の生理学的意味について 青色光照射によって脱リン酸化されるNPH3の部位が報告されているが、先行研究の結果から未同定な部位が存在することが示唆された。そこで、YFP-NPH3を過剰発現させたシロイヌナズナの組換え体を用いて、青色光による脱リン酸化を誘導した個体からタンパクを抽出し、質量分析機器によって解析を行った。その結果、新たな脱リン酸化部位が同定された。新たに同定されたNPH3のリン酸化部位を含め、青色光によってリン酸化状態が変化するNPH3の全ての部位をアミノ酸置換し、恒常的疑似リン酸化タイプと恒常的脱リン酸化タイプに改変し、それらをnph3突然変異体に導入した。現在、それらの改変型NPH3を発現する形質転換体の胚軸光屈性を調べている。 2)NPH3を介した光屈性シグナル伝達に係る新規因子の同定について 新規光屈性突然変異体を分離するために、シロイヌナズナの種子を突然変異誘発剤であるEMSで処理し、次世代の種子から胚軸光屈性に異常を示す個体を探索した。分離した新規光屈性突然変異体の原因遺伝子を調べると、フォスファターゼに異常を示す個体が存在した。現在、T-DNAタグラインから、同フォスファターゼ遺伝子にT-DNAが挿入された系統を取り寄せている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
青色光によるNPH3のリン酸化状態の生理学的意味を明らかにするために、青色光に応答してリン酸化状態が変化するNPH3の部位を新たに同定し、各部位を恒常的疑似リン酸化状態と恒常的脱リン酸化状態にした改変型NPH3遺伝子を作成することができた。さらに、それらのコンストラクトをnph3変異体に導入し、ホモ個体を選抜することができている。また、植物の光順応に係る新規因子の同定については、新規光屈性突然変異体を分離するために、EMS処理したシロイヌナズナ種子から次世代の種子を使って選抜を試み、いくつかの候補となる突然変異体を選抜することができた。さらに、次世代シークエンサーなどを用いた解析により、少なくとも一つの突然変異体系統については、その原因遺伝子がフォスファターゼ遺伝子をコードする部位に変異箇所が存在することを突き止めることができている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進行していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)光屈性におけるNRLファミリーの働き:今年度も引き続き、NRLファミリーの多重変異体の作成を続ける。作成することができた多重変異体については、胚軸の光屈性を詳細に解析する。目的の表現型が確認された場合、青色光に応答したNPH3のリン酸化制御についてウエスタンブロッティングで解析する。また、YFP-NPH3を発現させたラインを交配によって作製し、青色光によるNPH3の一過的な細胞膜からの離脱反応を調べることで、NRLファミリーの生理的な働きを解析する。 2)青色光によるNPH3のリン酸化制御の生理学的意味:作成した改変型NPH3を発現する組換え体を用いて、詳細に胚軸光屈性を調べる。また、改変型NPH3にYFP蛍光タンパクをつなげ、それらを発現する組換え体を作成し、NPH3のリン酸化状態とNPH3の細胞内の動態を観察する。 3)NPH3を介した光屈性シグナル伝達に係る新規因子の同定:すでに分離した新規光屈性突然変異体の解析を進める。現在取り寄せているタグラインの種子を使って、ホモ個体を選抜した後、その個体について詳細に胚軸光屈性を調べる。また、蛍光タンパクを結合させたNPH3を導入し、光屈性におけるNPH3の細胞内の動態を調べる。さらに、新規光屈性突然変異体における青色光によるNPH3のリン酸化状態の変化を生化学的方法によって解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:主にオートクレーブ等の物品費を購入する際に、当初の予定額より安価に購入できたために生じたものである。 使用計画:研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画で進めていく。
|