研究課題/領域番号 |
17K07452
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
溝口 剛 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (70281623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光周性 / 短日性 / 長日性 / シロイヌナズナ / 概日時計 |
研究実績の概要 |
(課題1)については、主に実験室内栽培したシロイヌナズナ短日性変異体であるearly flowering 3; gigantea (elf3;gi)及びコントロール植物を短日条件下及び長日条件下で栽培し、4時間おきにサンプリングし、RNAを抽出した。cDNA合成後にリアルタイムPCRを行い、FLOWERING LOCUS T (FT)を含めた主要な花成制御遺伝子と概日時計遺伝子の発現解析を行った。フロリゲンをコードするFT遺伝子の発現量は、これまでの多くの報告のとおり、野生型植物では長日条件下で高く、短日条件下では低くなる。一方、野生型とは逆に、短日条件下の方が長日条件下よりも栄養成長時の葉枚数が少なくなり早咲きとなる、短日性変異体であるelf3;giでは、FT遺伝子の発現量は長日条件下で低く、短日条件下では高くなることを確認した。
(課題2)については、野外環境において気象データ(気温、湿度、照度など)を計測するとともに、短日性変異体であるelf3;gi及びコントロール植物の花成応答を解析した。これまでの多くの報告のとおり、野生型植物の花成は、春期から夏期の長日条件下で促進され。秋期から冬期の短日条件下では抑制された。一方、野生型とは逆に、短日性変異体であるelf3;giでは、実験室内条件下と同様に、自然条件下の短日条件下の方が長日条件下よりも栄養成長時の葉枚数が少なくなり早咲きとなることを確認した。
(課題4)については、シロイヌナズナ以外の長日性植物としてBrassica rapaに関する研究を進めた。John Innes Centreより、GIGANTEAとELF3の相同性遺伝子の点突然変異体系統の種子をそれぞれ複数入手した。短日及び長日条件下で播種し、コントロール植物との花成時期を比較した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「植物の開花・種子収穫季節を自在に制御する技術開発」を目的として、次の4課題を行うこととしている。(課題1)主に実験室内栽培したシロイヌナズナ短日性変異体(elf3;gi)のトランスクリプトーム・メタボローム解析を行う。(課題2)野外環境において気象データ(気温、湿度、照度など)を計測するとともに、短日性変異体の花成応答を解析する。(課題3)長日性植物の短日性植物化に関する数理モデル解析を行う。(課題4)シロイヌナズナ以外の長日性植物(タバコ、ミヤコグサ、ブラキポディウムなど)を用いて、ゲノム編集技術により、ELF3とGI相同遺伝子の二重破壊株の単離・解析を行う。
課題2については順調に結果を得ている。しかし、課題1-1については、全遺伝子の発現プラファイル解析やメタボローム解析の結果を得るには至っていない。また、1-2及び1-4についてもやや遅れている。そのため、課題3で予定している「数理モデル解析」に必要なデータが不足しているため、モデル解析には至っていない。課題4については、シロイヌナズナ以外の長日性植物として、Brassica rapaを選定した。これは、ELF3とGI相同遺伝子の点突然変異系統が既に単離され、ストックセンターから入手可能であったため、交配によりelf3;gi二重変異体の作出が可能と考えたためである。その他の長日性植物 (タバコ、ミヤコグサ、ブラキポディウムなど)に関する解析は遅れており、次年度に進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、予定どおり、下記の4課題を実施する。これらに加えて、29年度に未実施の項目については、合わせて実施する。 (課題1)短日性変異体における光周性変換メカニズムの理解:短日性植物アサガオのFT遺伝子発現ピークの位相は、ライトオフを認識してリセットされる。上記1)の光周期条件と野生型及び変異体系統を用いて、FT遺伝子と他の時計制御遺伝子の発現について、ライトオフによるリセット効果の有無を検討する。elf3:gi変異体において、FT発現量の変動が短日性植物型となるか検討する。 (課題2)短日性変異体の野外環境における花成応答の解析:平成29年度に引き続き、野外環境(学内の5観測地点)において気象データ(気温、湿度、照度など)を自動計測するとともに、短日性変異体の花成応答を解析する。月の初めに播種し、12回/年分の栽培データを取得する。短日性変異体elf3;giが自然条件下でも短日性を示すかを確認する。2年分のデータをまとめ、解析する。 (課題3)長日性植物の短日性植物化に関する数理モデル解析:平成29年度に引き続き、課題1と課題2に関する2年分の実験データをもとに、長日性植物の短日性植物化に関する数理モデル解析を行う。花成ホルモン・フロリゲン蓄積量、限界暗期長、概日時計のFRR、明暗周期によるリセットのされ方などを主な解析対象として、複数の数理モデルを構築する。理化学研究所・望月グループとの共同研究として実施予定。 (課題4)他長日植物の短日性変異体の単離・解析:タバコ、ミヤコグサ、ブラキポディウムなどの短日性変異形質が観察されれば、課題1、3と同様に、トランスクリプトーム解析及びメタボローム解析、数理モデル解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況に記載のとおり、平成29年度実施計画の中で、課題2については順調に結果を得ているが、その他の実施項目については、未実施の状況にある。課題1-1については、全遺伝子の発現プラファイル解析やメタボローム解析の結果を得るには至っていない。また、1-2及び1-4についてもやや遅れている。そのため、課題3で予定している「数理モデル解析」に必要なデータが不足しているため、モデル解析には至っていない。課題4については、その他の長日性植物(タバコ、ミヤコグサ、ブラキポディウムなど)に関する解析は遅れており、次年度に進めていく予定である。
上記の実施状況から、平成29年度未使用額が生じた。未実施項目を次年度(平成30年度)に実施予定であり、平成29年度未使用額を平成30年度に追加して使用予定である。
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