研究課題/領域番号 |
17K07453
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鞆 達也 東京理科大学, 理学部第一部教養学科, 教授 (60300886)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クロロフィル / 光化学系 / エネルギー移動 / 人工光合成 |
研究実績の概要 |
酸素発生型光合成において、クロロフィルaが合成機構・反応機構の基盤として機能する。しかし、このクロロフィルaよりも低エネルギーを使用する新規クロロフィル(d, f)の反応素過程を理解することは、特異的な光合成反応ばかりでなく、それを摂動として捉えることにより、一般的な光合成反応を知ることにつながる。本年度はクロロフィルfをもつ光化学系I, II標品の単離に前年度までに成功していることから、この標品をもちいて、定常及び時間分解分光法を用いて、励起エネルギー移動機構の解析を行った。その結果、室温に置いて長波長側のクロロフィルを励起することにより、短波長側に励起エネルギーが移動して蛍光を発することを観測した。また、この時、複数のクロロフィルfを経由してクロロフィルaにアップヒルにエネルギーが移動する知見を得た。エネルギー移動には吸収帯の重なりが必要なことから、アップヒルのエネルギー移動には吸収帯の大きな重なりが必要と示唆される。本成果により、明らかになった効率的なエネルギー移動機構により、アップヒルエネルギー移動の原理が明らかとなる。現在、本標品を用いて三次元結晶構造解析の準備を進めている。 また、本新規クロロフィルをもつ標品あるいはクロロフィルaをもつ標品を利用して、生体を用いた人工光合成系の開発も進めている。光化学系のエネルギーおよび電子移動の量子収率はほぼ1に近いことから、これら標品と炭素系新材料を組合わせた還元力の生成機構の構築を進めている。現在、光化学系IおよびIIと炭素系新素材とを組合わせて、光照射により水素を得ることに成功している。電子供与体として水を用いることにより持続的なエネルギー創生が可能になる。これらの他、好酸性藻類を用いてその生育機構を解明し、光合成の機構解明の報告も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規クロロフィルを含むシアノバクテリアより精製度の高い光化学系I,II標品の単離精製に成功し、この標品をもちいて励起エネルギー移動の解析を行った。吸収帯の重なりと近接が効率的なエネルギー移動を支えているとの知見を得ている。また、本標品を用いた構造解析にも着手しており、新規クロロフィルの局在部位を明らかにすることは光合成機構の解明に大きなインパクトを与えることが期待できる。また、生体を用いた人工光合成も水素を得るところまで研究が進行していることから、この系を用いた持続的なエネルギー生産の基盤技術の獲得が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
この二年間の研究で新規クロロフィルをもつ光合成光化学系コア複合体の単離精製に成功している。今後は、この標品を用いて、生化学的処理、あるいは有機溶媒で処理することにより、結合しているクロロフィル数を減らすことを計画している。クロロフィル数の減少により、新規クロロフィルが光化学系のどこに局在し、機能しているかを分光的に明らかにしていく。 分光解析および構造解析により、新規クロロフィルの局在部位を明らかにし、低エネルギーから高エネルギー側への励起状態の移動機構を明らかにする。 これらを人工光合成に応用することにより、より効率的な系を創生していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の個人研究費で消耗品を購入したため。
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