研究課題
本研究の目的はゲノムDNAに損傷を受けた植物が活性させる様々な応答反応(細胞周期の停止、DNA修復、プログラム細胞死、細胞分化)と、DNA損傷応答を統括している転写因子SOG1のリン酸化の関係を解明することである。シロイヌナズナを、様々な濃度のゼオシン(DNA二重鎖切断誘発剤)で処理すると、DNA損傷量が増えるにつれ、SOG1のリン酸化の量が増えていた。次にSOG1のリン酸化部位である5つのセリンーグルタミン(SQ)の数を1~5個に変化させたリン酸化変異体(1SQ~5SQ)を用いて同様の実験を行ったところ、すべての変異体においてDNA損傷量に比例して、リン酸化量が増えていた。さらにゼオシンに応答した根の伸長もDNA損傷量が増えるにつれ強く阻害された。またゼオシンに応答したリン酸化を経時的に観察したところ、どのリン酸化変異体においてもゼオシン処理後10分でリン酸化が生じており、とても早いレスポンスであることが示された。また処理してからの時間が経つにつれ、そのリン酸化量が増えることも明らかになった。さらにSOG1リン酸化変異体を用いて、組織によってDNA損傷応答に違いがあるかどうかを検討した。野生型SOG1を持つ植物体では、幹細胞では細胞死が生じ、伸長領域では細胞分化が生じるが、リン酸化変異体ではこれらの応答反応は、SOG1のリン酸化の数が増えるにつれ強まることが示された。以上の結果より、SOG1のリン酸化の数が増えるにつれ、各DNA損傷応答の活性化レベルが強まることが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
SOG1のリン酸化の数が増えると、それに応じて下流の遺伝子の発現制御も徐々に強くなり、その結果DNA損傷応答も段階的に強くなることを明らかにした。これまでに植物のDNA損傷応答が転写因子のリン酸化によって段階的に制御されうることを示したのは初めてであり、この成果は論文にまとめることが出来た。よって今年度は予想以上に進展していると言える。
SOG1はリン酸化を介して、相互作用因子と結合し、下流の遺伝子の制御を行っている可能性が考えられる。そこで今後は共免疫沈降法と質量分析解析を行う事によってDNA損傷の無い状態とDNA損傷が生じた際にSOG1と相互作用する因子を同定する予定である。さらにSOG1のリン酸化変異体を用いることで、SOG1のリン酸化部位が変化する事によって、SOG1と相互作用する因子が変化するかどうかについても明らかにする。相互作用因子が同定できれば、相互作用因子の変異体を用いてChIP-seqを行い、相互作用因子との作用がSOG1のターゲット遺伝子への結合力に与える影響についても検討する。
旅費について、別の予算から支出したので今年度の使用金額が少なくなった。それらは平成30年度に、試薬などの消耗品を購入する計画である。
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The Plant Journal
巻: - ページ: -
10.1111/tpj.13866
The Plant Cell
巻: 29 ページ: 3255-3268
10.1105/tpc.17.00267
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