研究課題/領域番号 |
17K07455
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
愿山 郁 東北大学, 生命科学研究科, 博士研究員 (10346322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | DNA損傷応答 / 植物 / SOG1 / DNA修復 |
研究実績の概要 |
DNA損傷応答とSOG1リン酸化の経時的解析(時間的解析) まず転写因子SOG1によって制御されている下流因子であるDNA修復因子、BRCA1やRAD51の誘導はDNAが損傷して20~30分後には生じていていることを明らかにした。SOG1はDNA損傷に応答して10~20分後にはリン酸化されており、SOG1が活性化してすぐDNA修復因子を発動させていることが明らかになった。次に、SOG1のリン酸化部位の数を変化させたリン酸化変異体(1SQ~5SQ)を用いてリン酸化の経時変化を調べたところ、1SQ以外のすべてのリン酸化変異体において、DNA損傷処理後20分からリン酸化が生じ、時間が経つにつれてリン酸化の量が増えることを示した。
DNA酸化損傷とSOG1リン酸化の関連性(選択性の解析) 本年度はDNA二重鎖切断とは異なるDNA損傷が生じた際、植物体はどのように応答するのかを検討した。まずは、DNAに酸化損傷を与える活性酸素誘発剤を用いて根の伸長に与える影響について調べた。スーパーオキシドを生成するパラコートを様々な濃度で処理した場合、、野生型植物の根の伸長は、パラコート濃度が高くなるにつれ徐々に抑制された。sog1-1変異体でも同様に根の伸長は抑制されたが、0.05μMのパラコートで処理した際の根の伸長抑制は野生型よりもsog1-1変異体のほうが弱かった。この結果は、SOG1がスーパーオキシドに応答した根の伸長停止に関与していることを示唆している。別の活性酸素生成薬剤である、過酸化水素で処理した場合においても、野生型とsog1-1変異体の根の伸長は濃度が濃くなるにつれ抑制が強くなっていたが、野生型とsog1-1変異体の両者に違いは認められなかった。これは同じ活性酸素でも、スーパーオキシドと過酸化水素ではSOG1の応答反応が異なることを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、DNA損傷に応答してSOG1がリン酸化されるタイミング、また下流遺伝子の活性化のタイミングを明らかにすることによって、DNA損傷応答において統括的に働くSOG1転写因子が、DNA損傷を感知してから、かなり早い段階で活性化され、最終的にDNA修復因子の活性化もすばやく行っていることを示し、SOG1がDNA損傷応答経路の上流で働いているというこれまでの結果を支持するものとなった。さらにSOG1のリン酸化変異体を用いた実験により、SOG1のリン酸化部位が経時的に変化することがないことも明らかにした。これらの結果はPLANT SIGNALING & BEHAVIORに発表することが出来た。さらに本年度は活性酸素に対する根の応答反応についても明らかにした。よって今年度は「順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに我々は、SOG1のリン酸化部位の数を変化させることにより、リン酸化の経時的な変化の有無や最終的に活性化される応答反応に与える影響について検討してきた。今後はSOG1に存在する5つのリン酸化部位のどの部位が各応答反応に重要な働きを持つのかを明確にするために、5つのリン酸化部位SQを1つずつ潰した変異体(SQ→AQ)を作製する。そしてそれぞれの変異体が、DNA修復の活性化、DNA複製の停止、プログラム細胞死の活性化、細胞分化の活性化に与える影響ついて検討する。これにより各部位のリン酸化が果たす役割について明らかにすることができる。またSOG1のリン酸化はターゲット遺伝子への結合能を変化させているのか、あるいはSOG1相互作用因子との結合に影響するのかについても検討する予定である。これらの結果を総合的に考察することで、DNA損傷応答のマスターレギュレータであるSOG1転写因子がどのように多種多彩な応答反応を統括しているかを示すことができると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は所属機関が変更したことにより、実験のセットアップに時間を要した。よって、計画していた実験の一部が実施出来なかったことにより、消耗品を購入するための支出が抑えられた。また予定してた一部の学会に参加することが出来なかったため、旅費の支出も抑えられた。
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