研究実績の概要 |
本年度は、シロイヌナズナのDNA損傷応答を統括している転写因子SOG1に存在する5箇所のリン酸化部位SQ(セリン・グルタミン, 350SQ, 356SQ, 372SQ, 430SQ, 436SQ)の各々1箇所をAQ(アラニン・グルタミン)に変えたコンストラクトを作製し、sog1変異体に導入したトランスジェニック体を構築した。これら5種類のSOG1リン酸化変異体を使用し、DNA損傷に応答したリン酸化に対する影響をウエスタンブロットで調べた。その結果、356AQラインはDNA損傷応答によって生じるリン酸化が全く観察されなくなっていた。この結果は、SOG1のリン酸化は356SQが最初にリン酸化され、その後別の部位のリン酸化が生じるということを意味している。430AQ変異体はDNA損傷を与えない条件において生育が悪いことから通常の生育時に、430SQのリン酸化はなんらかの役割を果たしていることが考えられた。次にこれら5種類のリン酸化変異体をゼオシン培地(DNA二重鎖切断誘発剤を含む培地)に移して、根の伸長の応答反応を調べた。野生型はゼオシン培地上で根の伸長を停止させるが、356AQ変異体は、5箇所のリン酸化をすべて潰したラインと同様に、根の伸長を止めなかった。この結果は356SQ部位がリン酸化されないと、他の部位がリン酸化されないという結果と一致していた。さらに356AQ変異体では、5箇所のリン酸化をすべて潰した変異体と同様にターゲットとするBRCA1遺伝子の転写誘導や、根の幹細胞での細胞死の誘発が生じていなかった。以上の結果から、SOG1に存在する5箇所のリン酸化部位は、それぞれ性質が異なり、中でも356SQのリン酸化は、その他のリン酸化のトリガーとなる重要な意味を持つことが明らかになった。
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