研究課題
真核細胞に必須のオルガネラであるペルオキシソームは、脂肪酸代謝や活性酸素種の除去などの共通の機能に加え、植物では光呼吸、酵母ではアルコール発酵、動物では胆汁酸の生合成といった生物種に特異的な機能を併せもつ。これらの機能は、進化の過程で生物種に応じて獲得されてきたと考えられる。これまでの植物ペルオキシソームの研究は、主にモデル被子植物のシロイヌナズナを中心に行われ、他の植物における知見はほとんどなかった。本研究では、基部陸上植物であるゼニゴケと、シロイヌナズナとは異なる生活様式をもつ非モデル植物のギンリョウソウとオロバンキも加え、ペルオキシソームの機能と形成に関わる因子の同定と機能解析から、植物ペルオキシソームの機能と形成の多様性、および適応性の獲得機構の解明を目指す。令和元年度は、ペルオキシソーム機能を支えるタンパク質輸送の分子機構を明らかにするために、タンパク質輸送変異体として単離したシロイヌナズナのapem7変異体の解析を進めた。APEM7がコードするPEX4は、これまでの解析からゼニゴケにも存在することを明らかにしており、PEX4を介したタンパク質輸送の分子機構に、種間における共通性あるいは多様性の解明を試みた。そこでPEX4の相互作用因子を同定、および野生型とapem7変異体におけるPEX4の動態の違いを明らかにするために特異抗体を用いた解析を行った。これまでの解析から、PEX4はモノユビキチン化されることを明らかにしているが、apem7変異体では付加されたユビキチンが外れなくなっていることが明らかとなり、PEX4のユビキチン化を介した制御がペルオキシソームタンパク質輸送に必要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
非常に力価の高いPEX4抗体の作成に成功した。これを用いることで、細胞内のPEX4の局在や修飾などの動態を明らかにすることができたほか、免疫沈降実験が可能となり、PEX4と相互作用する因子の同定とそれらの機能解析が可能となった。
PEX4の相互作用因子の同定とそれらの機能解析を進める。具体的には、同定した相互作用因子をコードする遺伝子の破壊株において、ペルオキシソームタンパク質輸送と個体の表現型を明らかにし、論文としてまとめる。同定した相互作用因子のホモログが、ゼニゴケに存在するか調べ、存在する場合はゲノム編集による遺伝子破壊株を作製し、ペルオキシソームタンパク質輸送への影響を調べる。また、ゼニゴケのPEX4プロモーターとレポーターとの融合遺伝子を導入した形質転換ゼニゴケを作製し、どの時期のどの細胞でPEX4の遺伝子が発現しているか明らかにする。apem8では、ペルオキシソーム機能の重要な機能である光呼吸系を司る酵素の機能が低下している。光呼吸は光合成と共に獲得されてきたと考えているが、光合成を行わないギンリョウソウやオロバンキでは、APEM8が発現しているか明らかにする。
本研究では、apem7に加え別の変異体であるapem8も使用予定であった。しかしながら、遺伝子組換えを行ったシロイヌナズナ種子を保存しているデシケーターが故障し、保存しているapem8の種子の発芽率が低下し、実験のためのサンプリングが困難になった。そのため再度シロイヌナズナに遺伝子導入を行う必要が生じた。既に遺伝子導入は終了しており、apem8を用いた実験を再開する準備は整いつつある。
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