研究課題
単離した葉肉プロトプラストから植物体を再生させた歴史的な研究から、植物細胞は一度分化した後も脱分化し、分化全能性を発揮できることが証明された。この能力に裏打ちされた柔軟な細胞分化の可塑性は、組織培養を用いたクローン増殖等、農業的にも古くから利用されてきたが植物細胞がどのように分化全能性を再発揮するのか、そのメカニズムは不明な点が多く、21世紀の科学における重要な問いの一つとなっている。申請者のこれまでの研究や国内外の関連研究から、植物細胞脱分化のアクセルとブレーキを司るキーファクターが存在することや、分化多能性の細胞塊であるカルスを形成する分子経路は複数あることが明らかになってきた。植物細胞の脱分化を分子レベルで包括的に理解するためには、 キーファクターが直接制御する因子は何か、さらには、細胞脱分化を司る実行因子群を実 際に特定し、それらの発現が時間的にどのように変化するかをまず理解する必要がある。本研究では、脱分化促進転写因子を足がかりとし、特に傷害誘導性細胞脱分化の分子ネットワークを経時的RNA-seq解析とChIP-seq解析によって捉える。傷害部位における脱分化促進転写因子の機能抑制変異体と野生株の遺伝子発現差異、ゲノム結合部位情報、さらに遺伝子発現誘導系で抽出した因子群から脱分化促進転写因子の直接/非直接下流候補因子を選抜する。さらに下流の重要因子に着目し、これらの因子とカルス形成、脱分化促進転写因子による発現制御様式を生化学的、分子遺伝学的なアプローチを用いて解析する。当該年度においては野生株と脱分化促進転写因子の機能抑制型変異体を用いた経時的RNA-seq解析を進め、傷害部位における遺伝子発現ネットワークを捉えることができた。
2: おおむね順調に進展している
RNA-seq解析を終え、GO解析等によってストレス処理後の現象が浮かび上がっている。ChIP-seq法によるデータも1回の実験ながら得ることができ、これらのデータによって、重要因子の絞り込みができているため。
ChIP-seq法による実験を繰り返し、ロバストなデータセットを取得する。これまで絞り込んでいる分子ネットワークの重要因子に関して、遺伝学的アプローチから傷害誘導性細胞脱分化における役割を明らかにしていく。
次年度もゲノムワイドな解析が必要になり、その分のキット・試薬費等に経費が必要である。また、通常使用機器の老朽化が進んでおり、故障に対する修理や新規購入に対する経費も必要になる。具体的には、ChIPシークエンスに必要なキット・試薬およびPCRマシンを購入予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Plant and Cell Physiology
巻: 59 ページ: 770-782
doi.org/10.1093/pcp/pcy013
Plant Physiology
巻: 175 ページ: 1158-1174
10.1104/pp.17.01035