動物の性別は、卵巣にも精巣にも分化可能な未分化生殖腺が卵巣に分化するか精巣に分化するか、によって決定される。遺伝的に性別の決定されている魚類において、性ホルモンなどの外的要因によって完全な性転換の起こることは1950年代にメダカで示された事実である。しかしながら、そのような性転換時にどのような遺伝子がどのように働くことによって、本来の生殖腺の分化の方向(遺伝的性別)と異なる方向へと分化が進むのかは未だよく分かっていない。そこで、本研究では、応募者の作出した遺伝子破壊メダカを駆使して、遺伝的雌から雄へ性転換する時の分子機構を明らかとすることを目的とした。 このような目的にメダカは最適な実験動物である。メダカの性別はXX-XYの雄ヘテロの遺伝様式で決定され、性決定遺伝子がY染色体上のdmyであることがわかっている。dmyは、孵化数日前のXY胚の生殖細胞を取り囲む体細胞特異的にそのmRNAの発現が始まる。また、変異体の解析から未分化生殖腺を精巣に分化させる際に重要な働きをしていることがわかっているdmrt1とgsdfは、共に性決定遺伝子の発現細胞と同じ細胞で発現する。メダカ胚が孵化した時点でgsdfは雌雄に発現量の差異が認められる。 本年度は,近交系として樹立されており遺伝的背景が均一なHd-rR系統の遺伝的オス,メス(a)と性決定遺伝子の次にオス特異的に発現量の上昇するgsdf遺伝子のコード領域を欠損させた系統の遺伝的オス,メス(b)の間で孵化時点で発現量の異なる遺伝子を絞り込んだ。特に野生型XX個体やgsdf欠損XX個体と比較して野生型XYで発現上昇してるのに,gsdf欠損XYで発現上昇しない遺伝子群は,未分化生殖腺の精巣分化課程の初期に精巣方向への分化に関与する遺伝子群であると考えられ,今後これらの遺伝子群に注目して,性転換誘導時の発現解析を行うことが可能となった。
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