研究課題
組織カリクレイン(Klk)ファミリーは,分泌型セリンプロテアーゼのファミリーである。我々は,マウス子宮内膜にKlk1とKlk5のカリクレインが発現し,発情ホルモンにより産生が高まることを発見した。これらのKlk の生理的役割は不明である。Klk1とKlk5は細胞外マトリックスやインスリン様成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)を分解するので,細胞増殖や組織構築への関与や,ガン化,腫瘍形成に深く関与することが考えられる。本研究では,マウス生殖器官系におけるKlkの新規の生理的役割を解明するとともに,Klk発現の変化と生殖器官におけるガンや腫瘍形成との関連も調べることを目的とする。Klk1遺伝子の発現が,エストロゲン受容体によってAP-1サイトを介して制御されることを前年度明らかにした。そこで,AP-1サイトの候補となる領域をゲノムデータベースと検索プログラムTFBINDによって解析した。AP-1サイト候補は,5’上流域-1577まで多数存在することが分かった。そこで,エストロゲンに応答する候補となるAP-1サイトを欠失した変異体と部域特異的塩基変異を導入した変異体を作出して,プロモーター解析をおこない, -433/+24にある2つのAP-1がエストロゲン受容体が作用することをを明らかにした。4-hydroxytamoxifenによってもKlk1のプロモーター活性が上昇することも明らかにした。今後は,chromatin-immunoprecipitation assay法により,エストロゲン受容体のAP-1サイトへの結合を解析する。昨年度に引き続き分泌されたKlk1によるIGFBP3分解を解析した。コンディションメディウムのpHや,基質とするIGFBP3の調製法を検討した。さらに引き続き,Klk1の作用解析をすすめる。
2: おおむね順調に進展している
Klk1遺伝子の転写開始点から5’上流域をもつリポーター遺伝子により,プロモータ解析をおこない,エストロゲンに応答するAP-1サイトを解明することができた。変異体の作製も順調におこなうことができ,エストロゲン受容体が結合する領域が特定できた。相互作用するコアクチベーターを解析することができるようになり,エストロゲゲンによるKlk1遺伝子の詳細を解明する糸口を見つけることができたと考えられる。その一方,Klk1のIGFBP3分解作用の解析は,分解したIGFBP3の検出系が確立できないので,やや研究の進行に遅れが出ているが,全般的にはおおむね順調に進んでいる。
Klk1遺伝子の転写制御機構の解析は順調にすすんでおり,AP-1サイトへのエストロゲン受容体の結合を解析するとともに,関係するコアクチベーターについても解析をすすめていく。これによりエストロゲン受容体による遺伝子転写制御機構の一端が明らかになり,分子内分泌学的に重要な知見を提供できると考えられる。子宮内膜間質細胞で合成・分泌されたKlk1が細胞外で,細胞外マトリックスの構成要素であるIGFBP3を分解して,細胞増殖を促進することを明らかにしていく。培養液内でのKlk1の活性化機構に着目して解析をすすめる。最終年度となるので研究成果を取りまとめて,学術論文として公表する準備をすすめる。
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Cell and Tissue Research
巻: 375 ページ: 743-754
10.1007/s00441-018-2947-2
https://sites.google.com/view/molecular-endocrinology-lab