研究課題/領域番号 |
17K07473
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
田中 厚子 琉球大学, 理学部, 助教 (40509999)
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研究分担者 |
松浦 英幸 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20344492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 傷害応答 / オーキシン / 褐藻 |
研究実績の概要 |
本研究は、動物や陸上植物とは異なる進化の過程で,独自に多細胞体制を獲得した褐藻類の傷害応答機構に注目し,傷害応答における植物ホルモンの役割を明らかにすることを目標として掲げている。具体的には、褐藻アミジグサで既にオーキシンによる促進作用が確認されている傷害組織の癒合に焦点を当て、オーキシンの合成から組織内の移動、作用機序までの各段階を形態学的・分子生物学的アプローチを用いて解明する予定である。 初年度に予定していたオーキシン合成酵素をコードする遺伝子のクローニングが難航しているため,まずはトランスクリプトーム解析による発現遺伝子の解析を試みた。同一個体から無性的に増殖させた幼葉を二つのグループに分け,傷害のアリ/ナシでRNAを抽出し,シークエンスを行った。アミジグサのゲノム情報は未だ報告されていないため,得られたデータを持ちいてde novo assembleを行った後,得られたリファレンス配列に対してマッピングを行い,遺伝子の発現解析を行った。その結果,多くの遺伝子で発現量の差異が認められ,現在は発現量に差が見られた遺伝子の機能群解析を行っている。さらに今回の結果からオーキシン合成酵素をコードする遺伝子のホモログと思われる配列の抽出も並行して行っている。 トランスクリプトーム解析と並行して,傷害個体の経時観察と生長量測定を行っている。その結果,傷害と生長の間に因果関係があることや傷害と生長部位の空間的位置の関係,傷害の種類による形態的応答の変化などが明らかになっており,今後はそれらの現象とオーキシンとの関係を精査していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,予定していたオーキシン合成酵素をコードする遺伝子のクローニングが難航し,in situ hybridization ができないままであるため,オーキシン合成部位の特定ができていない。しかし,予定を早めて行われたトランスクリプトーム解析は順調に進行しており,近々に発現量解析の結果と,機能別解析の結果が得られる予定である。クローニングが困難であったオーキシン合成酵素をコードする遺伝子について,RNA sequenceで得られた配列の中からホモログを抽出することで,in situ hybridizationによるオーキシン合成箇所の特定が可能であると考えている。さらに顕微鏡による傷害応答の経時観察から,傷害誘導性の生長が起こる箇所については一定の傾向が見られることから,オーキシン合成部位の特定後の機能推定にも進展が期待できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては,まず発現解析を完了し,傷害によって促進または抑制される遺伝子を把握し,傷害ストレスの影響を網羅的に把握する。さらに得られたRNA配列からオーキシン合成酵素遺伝子のホモログを抽出し,in situ hybridizationによってオーキシン合成酵素が局在する部位を予測する。その結果を局所的な生長として現れる傷害応答と比較し,さらに様々な部位に傷害を与えた個体を用いたin situ hybridizationを同様に行うことで,合成されたオーキシンの流れや傷害を受けた場合の変化が予測できると考えている。並行して,オーキシン輸送に関係する遺伝子のホモログも得られたRNA配列から抽出し局在解析を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた in situ hybridization のためのプローブ作製が頓挫しているため,その製作費用が未使用となっているため。
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