本研究は、動物や陸上植物とは異なる進化の過程で独自に多細胞体制を獲得した褐藻類の傷害応答機構に注目し,傷害応答における植物ホルモンの役割を明らかにすることを目標として掲げている。具体的には、褐藻アミジグサで既にオーキシンによる促進作用かが確認されている傷害組織の癒合に焦点を当て、オーキシンの合成から組織内の移動、作用機序までの各段階を形態学的・分子生物学的アプローチを用いて解明する計画である。 本年度は計画当初から行っている傷害の有無に分けたクローン個体群のRNA sequence解析の反復試行により信頼性の高い結果の抽出に取り組んだ。現在はこれまでに得られたデータと合わせてより精度の高い結果を目指して再解析しているところである。今回の解析では,傷害によって高い発現誘導される遺伝子数は発現抑制される遺伝子数の10分の1程度であったが,傷害によって顕著な発現パターンの変化が見られているため,遺伝子群ごとに詳細な分析を行っている。さらに当初の目的であった植物ホルモン合成遺伝子に注目した発現解析も進行中である。本年度はこれまで注目していたオーキシンに加え,褐藻類の傷害応答にオーキシン以外の植物ホルモンも関与している可能性が示唆される結果を得た。これに関しても,既に得られているRNA sequence解析結果を用いた関連遺伝子の探索とその発現誘導に関する研究に取り組んでいる。本年度は今後の褐藻における傷害ホルモン研究の基盤を固めるに十分な成果が得られたと考えている。
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