研究実績の概要 |
本研究は多くの動物の嗅覚情報処理経路に共通にみられる並行経路についての具体的な機能や進化的起源についての示唆を得るため、進化的に古い昆虫(ワモンゴキブリ)を用いた介在ニューロンレベルの形態・生理学的研究を行うものである。研究最終年度となる2019年度については、当初計画通りに研究を進めた。まず、気流変化によって応答が変化する投射ニューロンのサンプルサイズを従来の約3割増やすことができた。これにより、良く似た気流応答を示す投射ニューロンは触角葉内の近接した糸球体に樹状突起を持つことが明らかとなった。 次に、ゴキブリが自発的に触角を動かすことで、気流変化が生み出されることが想定されるため、触角運動中の投射ニューロンの活動がどのように修飾されるのかを調べたいと考えた。そこで、触角の自発運動を妨げないプレパレーションを作成し、記憶中枢であるキノコ体へ匂い情報を運ぶ投射ニューロンからの細胞内記録を行うという挑戦的試みを行った。まず、拘束条件でなおかつ脳を露出した状態で自然な触角運動を惹起させることは困難であることが判明した。そこで、アセチルコリンの非選択的ムスカリン受容体刺激薬であるピロカルピンの脳への投与により、触角運動を強制発現できることを確認した(Okada et al., 2009)。ところが、この場合は強い触角運動が惹起されるため、安定した細胞内記録を行うことが極めて困難となった。現在、濃度条件を変えて弱い触角運動の条件下での細胞内記録を進めている。なお、キノコ体からの局所電場電位については傘の先端、基部で問題なく記録できることを確認した。このデータは今後の研究においても大いに活用できるものと考えている。
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