研究課題
幼少期に虐待やネグレクト(育児放棄)などの大きなストレスを経験すると、将来、うつ病や心的外傷後ストレス症候群(PTSD)などの精神疾患の発症率が高くなる。それだけでなく、心臓病などの身体異常の発症率も上昇すると言われている。このような将来的に精神だけでなく身体までにも引き起こされる異常は、成長過程における脳内神経回路の不可逆的な変容が長期にわたって継続したためと考えられるが、その機序の詳細は明らかではない。本研究では、幼少期に母仔分離ストレスを継続的に経験したマウスを用いて、幼少期ストレスによって精神と身体の両方に異常を引き起こす脳内神経回路の変容機序の解明を目的とした。前年度までに、幼少期ストレスが、脳内神経回路およびそれを反映した行動に異常な影響を与えることを見出した。令和2年度は次のような成果を得た。1.匂い物質を用いて匂い認知試験を行った。ストレス負荷マウス(オス)において、嫌悪臭である酪酸に対する忌避行動は見られなくなったのに対して、先天的恐怖を誘起する天敵臭に対する忌避行動は維持された。2.酪酸刺激時の脳内神経活性の網羅的解析を行った。ストレス負荷マウスでは、情動やストレスに関する脳部位である扁桃体や側坐核における神経活性が抑制されていた。以上のことから、幼少期ストレスが嗅覚を介するストレスを制御する脳内神経回路の反応性にも影響を及ぼすことが明らかになった。今後、詳細の解明に取り組んでいく予定である。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症の拡大等により研究実施計画に記載したスケジュール通り研究が進行しなかったので。
昨年度中に遂行予定であった研究計画を半年で遂行し、研究課題全体の総まとめに残りの半年で取り組んでいく。
次年度使用額が生じた理由は、【現在までの進捗状況】の項に記述した通り、昨年度の研究計画が予定通り進行しなかったため。
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Molecular Neurobiology
巻: 57 ページ: 4989-4999
10.1007/s12035-020-02078-y
日本味と匂学会誌
巻: 27 ページ: 39-40