研究課題
エダアシクラゲには、東北地方の太平洋側などに生息し、日暮れ時に(暗刺激により)配偶子を放出する「暗タイプ」と、東北地方の日本海側や陸奥湾などに生息し、夜明け時に(明刺激により)配偶子を放出する「明タイプ」が存在する。今回、暗タイプの雌雄と明タイプの雌雄から得られた卵と精子を4パターン(「暗×暗」、「明×明」、「暗×明」、「明×暗」)で受精させ、F1のクラゲを作出することに成功した。「暗×暗」や「明×明」のF1個体は親と同じ光変化に反応して配偶子放出に至ったのに対し、「暗×明」や「明×暗」のF1(ハイブリッド)個体はいずれも暗刺激と明刺激の両方に反応することが分かった。しかし、配偶子放出には暗タイプや明タイプよりも強い光変化を必要としたため、ハイブリッド個体は暗タイプと明タイプの中間的性質を示すと考えられる。また、明タイプであるClytia hemisphaericaを用いた研究では、卵巣特異的に発現しているOpsin9が放卵のための光受容に必須の役割を果たしていることを、この分子のノックアウト実験により明らかにした。さらに、卵巣上皮の神経細胞において、Opsin9は卵成熟誘起ホルモンである神経ペプチドと共局在していることも確認した。これらの結果は、クラゲでは1つの神経細胞が光受容から卵成熟誘起ホルモン放出までの複数の働きをこなしていることを示唆している。現在、このような図式がエダアシクラゲの明タイプや暗タイプにも当てはまるのか、その場合に両タイプの違いは何の分子に依るのかなどを、暗タイプや明タイプ、そして今回得られたハイブリッド個体を用いて比較解析している。
2: おおむね順調に進展している
エダアシクラゲの明タイプと暗タイプの交配により、多くのF1系統を得ることができ、これらの形質について順調に解析が進められている。また、Clytiaにおいて、配偶子放出のための光受容物質を同定するとともに、その局在についても明らかにすることができた。
前年度の研究から、エダアシクラゲの明タイプと暗タイプの間でF1が生じることが確認されたが、さらにF2やF3が生じるか、そしてこれらの子孫はどのような形質を示すかを明らかにする。また、明タイプと暗タイプのミトコンドリアDNAの比較を行い、どの程度の差異があるかについても解析を進める。さらに、ClytiaではOpsin9が配偶子放出のための光受容物質であると考えられるが、この分子がエダアシクラゲの明タイプや暗タイプにも存在するかをトランスクリプトーム解析によって調べていく。
配偶子放出のための光受容物質を同定するため、分子的情報が蓄積されているClytiaを用いた解析を先に進め、エダアシクラゲのトランスクリプトーム解析等を次年度に行うことにした。そのために、次年度使用額が生じた。本年度は、準備が整い次第、エダアシクラゲのトランスクリプトーム解析を行う以外は、当初の計画通りに執行していく。
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eLife
巻: 7 ページ: -
10.7554/eLife.29555
Development
巻: 145 ページ: -
10.1242/dev.156786