研究課題/領域番号 |
17K07482
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
出口 竜作 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (90302257)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 刺胞動物 / ヒドロ虫綱 / 生殖的隔離 / 卵成熟誘起ホルモン |
研究実績の概要 |
エダアシクラゲには、明タイプ(明刺激により配偶子を放出)と暗タイプ(暗刺激により配偶子を放出)が存在し、両者を交配させることによってF1(ハイブリッド)を得ることができる。今回、明タイプ、暗タイプ、ハイブリッドのそれぞれメス個体を用い、自然光下での放卵のタイミングを詳しく調べた。その結果、夜明け頃の光変化において、明タイプは全暗後のごくわずかな光強度上昇に反応して放卵を開始したのに対し、ハイブリッドはそれよりもかなり遅れて放卵に至り、暗タイプは放卵に至らなかった。一方、日暮れ頃の光変化においては、暗タイプは全暗になる前に放卵を開始したのに対し、ハイブリッドでは全暗になった後に放卵に至り、明タイプでは放卵に至らなかった。光受容後に卵巣上皮から放出されて卵成熟を誘起することが示されている神経ペプチド(アルギニン-プロリン-アルギニン-プロリンの4個のアミノ酸から成り、C末端がアミド化されているペプチド)を、明タイプ、暗タイプ、ハイブリッドのメス個体に人為的に投与した場合には、放卵のタイミングはほとんど変わらなかった。以上の結果は、明タイプと暗タイプでは光受容機構が大きく異なっていること、ハイブリッドでは両者の中間的な形質が生じることを示唆している。また、エダアシクラゲの卵は、放卵から一定時間が経過すると受精能を失うことが示されていることから、明タイプと暗タイプのあいだには「交配前隔離」が生じており、フィールドにおいて実際にハイブリッドが生じる可能性は低いと予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エダアシクラゲの明タイプと暗タイプが様々な段階で生殖的隔離を生じていることは示せてきているが、両者の光受容機構の違いを規定する分子に関する情報を得ることができていない。
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今後の研究の推進方策 |
明タイプと暗タイプが混在する地域において、ハイブリッドが存在しているか調査する。また、オプシンを含め、どのような光受容物質の違いが明タイプと暗タイプの性質を規定しているのか、生殖巣の上皮細胞で発現している光受容物質の種類や発現量を比較していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画通りに実験を進めることができず、明タイプと暗タイプの光受容機構比較のためのトランスクリプトーム解析を行うことができなかった。2020年度には、助成金によってトランスクリプトーム解析を確実に行うとともに、これまでに得られた結果を論文としてまとめる際の経費としても使用する。
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