これまでの研究により、エダアシクラゲの明タイプ(暗状態後の明刺激により配偶子を放出)と暗タイプ(明状態後の暗刺激により配偶子を放出)は、神経ペプチドRPRPa(アルギニン-プロリン-アルギニン-プロリンの4アミノ酸から成り、C末端がアミド化されているペプチド)をホルモンとして用いて配偶子放出に至るという共通の機構を有することがわかっている。すなわち、両者の光反応の違いを規定しているのは、光受容からホルモン放出に至る経路のどこかということになる。そこで、2021年度は、光受容タンパク質であるオプシンに着目し、明タイプと暗タイプのそれぞれの卵巣のトランスクリプトームの解析データから候補分子を探索した。その結果、両タイプに共通するオプシンの候補分子1個が見つかったため、in situ hybridizationを行ってその発現箇所を調べたところ、予想通り卵巣上皮に発現していた。また、これとは異なるオプシン候補分子のうち、片方のタイプにしか存在しないものもいくつか見つけることができた。 オスの配偶子放出(放精)については、メスに比べて不明な点が多い。今回、暗タイプのオスを用いて放精過程を調べたところ、精巣の口側端の上皮が破れて精子が外部に放出され始めた後、精子放出点が次第に反口側端に向けて波状に移行していくという現象が観察された。暗刺激だけでなく、ホルモンを投与した場合にも、口側から反口側に向けた波状の精子放出が誘起されたことから、ホルモン受容の下流で何らかの制御がなされていると考えられる。いずれにしろ、このような機構の存在により、オスの放精継続時間はメスの放卵継続時間よりも有意に長くなっており、このことが受精率向上に寄与している可能性がある。
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