研究課題/領域番号 |
17K07485
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
木下 充代 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (80381664)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 異種感覚統合 / 視覚 / 嗅覚 / チョウ / 高次中枢 |
研究実績の概要 |
ナミアゲハのメスでは、第一次嗅覚中枢(触覚葉)にはオスと比べて肥大化した糸球体構造がある。この性的二型を春型と夏型の雌雄で比較した。触覚葉の性的二型は、季節型に寄らずあることがわかった。ただし、夏型の触覚葉は、春型に比べ脳全体における容積が大きくなっており、性的二型を示す糸球体もメスでより大きく発達している傾向にあった。これは、春に比べて植物がより多くある夏では、嗅覚情報が複雑になり、匂いへの感度・弁別能力が高い必要があるからだろうと推測している。同様に生まれつき好きな色も春型より夏型の方が色への選択制が高くなることと、関係していそうだ。 触覚葉の性的二型は、感覚細胞の数もしくは介在神経の数やシナプスの数と関係するはずである。そこでまず触覚に発現する嗅覚受容レセプターの種類や量について検討するため、ナミアゲハの触覚からmRNAを抽出して、トランスクリプトーム解析を行った。その結果、雌雄で発現パターンが異なる嗅覚レセプターがあることを発見した。今後は発現量の解析などを詳しく調べる。 カルシウムイメージング法の確立を目指したが、露出した脳全体を染める方法ではあまり良い染色が得られず、具体的データーの取得には至らなかった。しかし、一部の個体では、触覚葉において匂いごとに異なる糸球体の応答パターンが観察できることがわかった。 視覚と嗅覚が完全に分かれているキノコ体の感覚入力部位に色素を入れて、キノコ体内での情報の流れを調べた。嗅覚と視覚の情報は、内在性の神経ケニオン細胞によって、基本的には並列の状態を保ったまま出力場所であるキノコ体基部に届くようだ。このことから、私は、二つの情報を統合し、キノコ体の軸・基部内の別領域を繋ぐ出力神経であるという仮説を新たに立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触覚葉の性的二型の季節型による共通性と違い、キノコ体の感覚情報の入力だけでなく内部の情報経路については、貴重な新規の知見が得られた。また、嗅覚受容レセプターの分子実験も、初めての試みながら進展をみた。一方で、カルシウムイメージング法の確立については、安定してカルシウム感受性色素で脳を染める得る方法が確立できていないため、進展はやや予定より遅れている。以上のこと全てを合わせると、全体としては順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、まず触覚葉におけるカルシムムイメージング方法を確立に注力するため、Galizia教授(コンスタンツ大学・ドイツ)などの専門家の招聘を行う予定である。カルシウムイメージング法の確立が困難を極めた場合、嗅覚応答を記録する電気生理学的手法を取り入れることも考えている。また、嗅覚受容体レセプターの発現で雌雄差が見られたものについて、季節型による差などの解析をを進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験・飼育補助に適当な人材が見つからず雇用を見送ったこと、カルシウムイメージングの専門家であるGalizia教授の招聘をより効果的にするため、H30年度に延期したため、招聘旅費及び人件費の支出が予定より低くなった。
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