研究課題/領域番号 |
17K07485
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
木下 充代 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (80381664)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 異種感覚統合 / 視覚 / 嗅覚 / 鱗翅目昆虫 / 高次中枢 |
研究実績の概要 |
アゲハチョウの生まれつき好む色は、特定の植物の匂いによって変わる。この匂いによる色の嗜好性の変化は、メスでのみ顕著に起こり、その原因の一つに第一次嗅覚中枢の糸球体構造にある性差によると考えている。今年度は前年度に引き続き、季節型・雌雄に置いてその糸球体構造を観察し、複数個体のデーターから容積の計測を行った。 昨年度から継続してアゲハチョウの触覚葉におけるカルシウムイメージング法を確立するために、染色方法の改善を試みている。しかし残念ながら、安定した染色方法が未だに見つからず、良い結果が得られなかった。また、キノコ体に入力する視覚情報処理を行う高次細胞からもいくつかの光応答の記録をし、細胞内染色による形態の同定を行った。これまでに少なくとも2種類の形態を同定できている。 生理学的な実験で用いる匂い源をさらに探索するためには、アゲハチョウが野外で訪問する花を明らかにする必要が出てきた。そこで、訪問した花をチョウの体表についた花粉から明らかにする実験系の確立をヒメウラナミジャノメで行った。その結果、チョウの体表からもハナバチ類と同様に花粉が採集できることがわかり、さらに花粉の形態と遺伝子情報から、植物種を同定することができた。草本性のキク科植物に加え、野外での観察が難しい樹木性の花へもチョウが訪れていることがわかってきた。この方法を用いると、訪れた花が特定できるだけでなく、野外で観察できない個々体の訪花履歴、花の視覚情報・匂いなど予想を上回る行動に関する知見が得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イメージング法の確立が未だできていない点では、やや遅れている。他の生理学的実験は、データー蓄積の段階でほぼ予定通りである。一方で、生理学的実験で用いる刺激の特定を目指し、アゲハが野外で訪れる花を特定する方法を探索した。実際に試みた体表花粉の分析で、大きな進展が見られたため、研究全体としては一定の成果を得られたと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
アゲハの触覚葉におけるイメージング法の確立に、より注力する。カルシウム感受性色素による触覚葉の染色が難しいのは、この領域特異的な現象である可能性を考慮し、嗅覚と視覚情報がであるキノコ体傘部での染色を試みる。もしキノコ体傘部でより良い染色像が得られるようであれば、キノコ体でのイメージングを進める。 視覚中枢からキノコ体への入力細胞からの光応答(分光・偏光)の記録を試みる。さらに、記録を得た細胞については細胞内染色を行い、個々の細胞の形態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
分子生物学実験での支出を大幅に抑制できたため、次年度使用額が発生した。次年度では、データー解析を補助する人件費としての支出を予定する。
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