研究課題/領域番号 |
17K07494
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
武藤 彩 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (00525991)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / カルシウムイメージング / 視覚 / 捕獲行動 |
研究実績の概要 |
視覚系が良く発達した昼行性の脊椎動物は多くの場合、餌となる獲物を視覚的に認識し捕獲行動を起こす。ゼブラフィッシュの捕獲行動を実験モデルとして、獲物を視覚的に認識する神経メカニズムを明らかにすることが本研究計画の目的である。そのための方法論として、獲物の視覚的特徴抽出を行う神経細胞の遺伝学的同定を行うことが本研究の主要な目的の一つであった。獲物を認識する神経核としては、前視蓋の領域内に存在するNucleus pretectalis superficialis parvocellularis (PSp)が報告されていたが、本研究によりGal4系統の一つであるgSAIzGFFD707Aが、この神経核を標識することを見出した。実際に、Gal4系統の魚と、UAS:GCaMP(カルシウムプローブ)との魚を掛け合わせて、カルシウムイメージングの実験を行ったところ、獲物(ゾウリムシ)を視覚的に認識する際の神経活動が生じていることが明らかになった。 また、味覚経験が視覚の認識に影響することを予想しており、そのために味覚系を遺伝学的に標識するためのGal4系統の探索も行った。その結果、魚類において第一次味覚中枢となっている迷走葉を標識する複数のGal4系統を得た。実際に迷走葉の神経活動をカルシウムイメージングで検出しながら、獲物となるゾウリムシを稚魚が飲み込むときに測定したところゾウリムシの捕獲時に迷走葉の神経活動が上昇することを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画は、捕獲行動に関与する神経回路を遺伝学的に同定することにより、獲物を捕獲する際の視覚的な認識機構を明らかにすることが目的である。そのために必要なツールとして、視覚系あるいは捕獲行動の神経回路を遺伝学的に標識するGal4系統の同定が必須である。これまでに、視覚系を標識するGal4系統を複数得ていることから、研究計画に沿って研究が進んでいるが、物体の認識機構を明らかにするには至っていないため。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的を達成するためには、視覚系の神経活動を、単一神経細胞の解像度で測定する必要があり、そのためには2光子励起顕微鏡または共焦点レーザー顕微鏡を用いた測定が必須である。これまでは主として落射蛍光顕微鏡を用いてカルシウムイメージングを行ってきたが、今後は、上記のイメージング装置を用いた精密な測定および解析を行う。これにより、物体の脳内認識機構の解明に必要な単一神経細胞レベルでの神経シグナルの可視化データを得ることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
捕獲行動を司る神経回路を遺伝学的に同定するためのGal4系統の同定が当初の計画よりも遅れたため、それらの系統を用いたカルシウムイメージングの実験にも遅れが生じ、その結果、カルシウムイメージングのデータの保存に必要な大容量データ保存装置およびカルシウムイメージングの際に必要となる視覚刺激装置の自作の時期が後ろにずれたため。
今後、カルシウムイメージングデータを保存するための大容量データ保存装置(テラバイト規模のハードディスクドライブ)、カルシウムイメージングにより脳の活動を記録際の視覚刺激装置の自作部品(有機ELディスプレイ、および付属品)、刺激用PC、データ解析用PCなどに予算を使用することを計画している。
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