研究実績の概要 |
腸幹細胞制御に対するチャネル型ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)の役割を調べた結果、選択的アゴニストであるニコチンを作用させると、腸オルガノイドの成長及びマーカー遺伝子の発現に対して促進効果を示し、一方、選択的アンタゴニストのメカミールアミンを作用させると、逆に抑制効果を示すことを見出した。次に、ニコチン及びメカミールアミン投与後のチャネル型nAChRsシグナルの下流域に働く遺伝子群を、RNA-Seq法によるトランスクリプトーム比較解析を行った結果、Wntシグナルの1つであるWnt5aの発現が顕著に上昇することを突き止めた。さらに、メカミールアミンの抑制効果は、Wnt5aによりレスキューされることを確認した。まとめると、両者のシグナル経路が互いに作用し合って、腸幹細胞の分化・増殖を促進していることが明らかとなった(Takahashi et al. Int. J. Mol. Sci. (2018) 19:E738)。 代謝型ムスカリン性ACh受容体(mAChR)サブタイプ(M3)のノックアウトマウス(KOマウス)の解析過程で、(1)M3-KOマウスのクリプトサイズが野生型マウスに比べて増大していること、(2)クリプト領域の細胞増殖及び組織形成と領域化に関与するEphB2受容体とそのリガンドであるEphin-b1,b2の遺伝子発現が上昇していること、(3)Ephirin-b1,b2/EphB2シグナリングの下流域で働くMAPK/ERKシグナル伝達経路が活性化されていることを見出した。このことは、M3-KOマウスのクリプトサイズの増大は、幹細胞と未分化細胞の増殖が促進されているとともに、Ephrin-b/EphBファミリー分子の濃度勾配が変動しているためであると考えた。すなわち、3者のシグナル伝達経路の協働によりクリプトの恒常性が維持されていると考えられる。
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