研究実績の概要 |
ヒトゲノム中に数百コピー存在するリボソームRNA(rRNA)遺伝子(rDNA)には、複数種類の「DNA複製阻害配列・領域」が存在する。また、ヒトのガン組織や細胞では実際にrDNAの不安定性が観察されており、DNA複製とゲノム不安定性の関係性は興味深い。本年度はAlternative lengthening of telomere経路を獲得してテロメラーゼ非依存的にテロメアを伸長する細胞であるALT細胞についてrDNAにおけるゲノム不安定性を検証する実験を行った。 Pierceらに確立されたパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を用いたrDNAリピート長の検出方法(Gene Cluster Instability: GCI assay)では、1Mb以下の長さを持つrDNAリピートでは、不安定性が典型的なラダー状に検出される。この方法を用いて、ALT細胞株(U2OS, SaOS, SUSM1, VA13)とnon-ALT細胞株(HeLa, HCT116, HEL293, RPE1)のrDNAリピート長を解析し、rDNAの不安定性を比較した。その結果、ALT 細胞株ではバルクの細胞集団において、non-ALT細胞株には見られないrDNAの不安定性を示すラダーパターンが見られたが、1細胞に由来するクローン細胞間ではrDNAクラスター長はnon-ALT細胞と同程度に均一であり、優位な不安定性は観察されなかった。この結果は、ALT細胞株では進行中のrDNA不安定性は起こっていないことを示唆している。しかしバルクの細胞集団ではrDNAクラスター長のheterogeneityが見られたことから、細胞株が樹立し増殖する過程に置いてrDNAの不安定性が誘導された可能性が考えられる。 また、DNA複製阻害配列・領域のゲノム不安定性への影響を調べるために、rDNA内の配列をヒト細胞内でDNA複製可能なプラスミド上にクローニングし、増殖中の細胞内でプラスミドの安定性を解析するアッセイを構築した。
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