研究課題
本年度は、まず、前年度までに確立したトラッキングシステムを用いて、行動中の線虫から神経活動の計測を行った。この解析から線虫温度受容ニューロンは、そのシナプス後ニューロンである介在ニューロンの活動を温度環境依存的に興奮あるいは抑制させることを見出した。さらに、線虫MASTキナーゼは、この双方向性のシナプス伝達制御に関与していることを明らかにした。線虫MASTキナーゼと機能的に相互作用するストマチンの変異体に関して、同様の神経活動計測を行ったところ、ストマチンも、この双方向性シナプス伝達を制御していることが明らかとなった。さらに、昨年度同定したMASTキナーゼと機能的に相互作用する新規因子をコードする遺伝子の変異体においても、シナプス伝達制御に異常を示すことを見出した。以上のことから、MASTキナーゼをはじめとするこれらの因子が、新規のシナプス伝達制御因子であること、特に、双方向性シナプス伝達制御に関与する因子であることが明らかとなった。また、この双方向性シナプス伝達には、シナプス前ニューロンから放出される、興奮性と抑制性の2種類のシグナルのバランスが重要であることが示唆された。興奮性、抑制性、それぞれのシグナル放出に必要な因子の変異体では、双方向性シナプス伝達に異常を示すことがわかった。これらのことから、MASTキナーゼ、ストマチンなどの因子が、この興奮・抑制性因子の放出バランスの決定に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
MASTキナーゼなどの因子が、シナプス伝達に関与していることを立証することができ、当初の計画が概ね順調に進展していると言える。
今後は、温度受容ニューロンから放出されるシグナル因子の直接の可視化を試みる。そのような系が確立されれば、MASTキナーゼなどの因子が、シグナル因子の放出量を変化させているかを直接捉えることが可能となると期待される。また、MASTキナーゼと機能的に相互作用するもう一つの因子の同定も、合わせて推進していく。
本年度の研究を実施するにあたって、研究計画を詳細に見直し、本年度に格段必要としない消耗品の購入を控えることとした。これによって生じた次年度使用額は、研究計画の遂行に必須な経費にあて、特に次年度で必要となる消耗品等に充当する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
bioRxiv
巻: 609479 ページ: 609479
https://doi.org/10.1101/609479
Aging Cell
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