研究課題/領域番号 |
17K07502
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
上野 勝 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (90293597)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | テロメア / 環状染色体 / 分裂酵母 / EVウイルス / がん / DNA修復 / 染色体分配 / ヒト細胞 |
研究実績の概要 |
ヒトの染色体は線状であるが、ある種のがん細胞は高頻度に環状染色体を持つ。また先天的に環状染色体を持つ遺伝病患者は、発達障害やてんかんなどを発症したり、環状染色体を失うことでがんのリスクが上がるという問題がある。そこで、環状染色体の安定性に関する遺伝子が見つかれば、環状染色体を持つがん細胞を死滅させたり、環状染色体を安定化することで、遺伝病患者のがんのリスクを軽減できる可能性がある。そこで本研究では、環状染色体の維持に関与する遺伝子の探索を行なった。その第一歩として、分裂酵母の環状染色体を持つpot1破壊株と合成致死になる遺伝子の探索を行った。その結果、pot1とpik1が合成致死であることを発見した。pik1はフォスファチジルイノシトール4キナーゼをコードする遺伝子で、ゴルジ体で機能することが報告されていたが、染色体の維持に関与するかどうかは全くわかっていなかった。本研究によってPik1が環状染色体の維持に関与することが示唆された。さらにpot1 とcpc複合体が合成致死であることを発見した。Cpc複合体はクロモソームパッセンジャー複合体の略で、染色体の分配に関与することが報告されていた。本研究によって、Cpc複合体が環状染色体の維持に関与することが明らかになった。さらに、pot1 rad9二重変異株がHUに感受性になることを発見した。Rad9はDNAダメージチェックポイントに関係するたんぱく質であるが、本研究によって環状染色体を持つ細胞でDNA複製が阻害された時に、Rad9 が生命の維持に必須であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、分裂酵母のpot1と合成致死になる遺伝子の探索と、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物を発見することを目的としていた。それらの両方の目的が達成されたため、概ね順調に進展していると判断した。具体的には、環状染色体の維持に必要な遺伝子を探索については、pot1とpik1が合成致死であることを発見した。さらにpot1 とcpc複合体が合成致死であることを発見した。また、環状染色体を持つpot1 rad9二重変異株がHUに感受性になることを発見した。また、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物のスクリーニングについては、1つの候補化合物が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で発見した環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物が、どのように環状染色体の維持を阻害するのかを解析する。さらにこの化合物の標的たんぱく質の同定を試みる。さらにこの化合物の標的たんぱく質をコードする遺伝子とpot1の二重変異株が致死かどうかを調べる。 さらにこの化合物が環状線色体を持つヒト細胞の生育を阻害するかどうかを調べる。そのために、環状染色体を持つヒト細胞株の樹立を試みる。具体的には、20番染色体が環状化した患者由来の血液細胞にEVウイルスを感染させることで不死化させ、この不死化した細胞株が環状染色体を持っているかどうかを調べる。環状染色体を持っていることが確認できれば、昨年度発見した、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物が環状染色体を持つヒト細胞の生育を阻害するかどうかを調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として124,806円が生じた理由は、論文投稿費用として考えていた費用である約13万円が無料の雑誌に掲載されることになったため、この費用が結果的に残った。残った費用は来年の論文掲載費用にあてる。
|