研究課題
ヒトの染色体は線状であるが、ある種のがんでは高頻度で環状染色体が見つかる。また、先天的に環状染色体を持つ遺伝病患者は、環状染色体にがん抑制遺伝子がある場合、不安定な環状染色体を失うことで、がんのリスクが上昇する。環状染色体の安定性を制御できれば、これらのがんの予防や治療に役立つ。そこで本研究の目的は、分裂酵母とヒト培養細胞を用いて、環状染色体の安定性制御に関係する新規遺伝子や新規薬物を発見し、それらの因子の機能や作用機構を解明することとした。本研究は、a) 環状染色体を安定化することで、環状染色体を持つ遺伝病患者のがんのリスクを軽減したり、b) 環状染色体を不安定化することで、環状染色体を持つがん細胞のみを選択的に死滅させる抗がん剤の開発などにつながる。本年度は、環状染色体の維持に関与する遺伝子の探索を行なった。その第一歩として、分裂酵母の環状染色体を持つpot1破壊株と合成致死になる遺伝子の探索を行った。その結果、pot1とbdf2が合成致死であることを発見した。これまでBdf2が、環状染色体の維持に関与するかどうかは全くわかっていなかった。本研究によってBdf2が環状染色体の維持に関与することが示唆された。また、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物のスクリーニングについては、アントラキノン骨格を有する候補化合物が得られた。さらに、ヒト17番染色体が環状化した遺伝病患者由来の血液をEBウイルスによる不死化した細胞をCoriell Instituteから入手し、解析を行ったところ、不死化した細胞において、環状化したヒト17番染色体が安定に維持されることを発見した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、分裂酵母のpot1と合成致死になる遺伝子の探索と、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物を発見することを目的としていた。それらの両方の目的が達成されたため、概ね順調に進展していると判断した。具体的には、環状染色体の維持に必要な遺伝子を探索については、pot1とbdf2が合成致死であることを発見した。また、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物のスクリーニングについては、アントラキノン骨格を有する候補化合物が得られた。さらに、ヒト17番染色体が環状化した遺伝病患者由来の血液をEBウイルスによる不死化した細胞をCoriell Instituteから入手し、解析を行ったところ、不死化した細胞において、環状化したヒト17番染色体が安定に維持されることを発見した。
分裂酵母の実験については、pot1とbdf2が合成致死になる機構を解析する。具体的には、pot1とbdf2が合成致死になることを利用して、Bdf2の温度感受性株を作成する。Pot1破壊株のバックグラウンドでBdf2の遺伝子にランダムに変異を導入し、25度では、生育可能だが、36度にすると生育不能あるいは極端に生育が低下するpot1 bdf2二重変異株を取得する。取得した二重変異株の表現型を詳細に解析することで、pot1 bdf2二重変異株がなぜ合成致死になるのかを解明する。環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しない化合物については、アントラキノン骨格を有する候補化合物がどのような機構で、環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害するが、線状染色体を持つ野生株の生育を阻害しないのかを解析する。具体的には、アントラキノン骨格にどのような置換基がついているとpot1破壊株の生育を阻害するのかを調べる。また、アントラキノン骨格を有する候補化合物を加えたときのpot1破壊株の表現型を詳細に解析することで、アントラキノン骨格を有する候補化合物が環状染色体を持つpot1破壊株の生育を阻害する機構を解析する。環状染色体を持つヒト細胞株につては、これまでの研究で得られた遺伝子のヒトホモログを阻害する薬物の添加で、環状染色体を持つヒト細胞の生育を特異的に阻害するかどうかを明らかにする。これらの解析で、環状染色体を持つヒト培養細胞の生育に影響を与える遺伝子や薬物が見つかれば、それらの遺伝子ノックダウンや薬物の添加が環状染色体の安定性にどのよう影響を与えるのかを解析する。
次年度使用額として約54万円が生じた理由は、論文投稿費用として考えていた費用である約24万円が無料の雑誌に掲載されることになったため、この費用が結果的に残った。残った費用は来年の論文掲載費用にあてる。また、約30万円は、ヒト細胞実験用であったが、細胞の入手が遅れたため、これらの実験は最終年度に行うことにした。残った約30万円は、最終年度のヒト細胞の実験で使用する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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